研究課題/領域番号 |
20K08799
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
岩崎 由希子 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, 客員研究員 (30592935)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 全身性エリテマトーデス / B細胞 / 抗体産生細胞分化 / トランスオミクス解析 / 免疫代謝 |
研究実績の概要 |
本研究は、全身性エリテマトーデス(SLE)のGWAS SNPであり、B細胞において比較的特異的な発現を認め、かつeQTL(expression Quantitative Trait Locus)効果が判明しているものの、機能未知であるFAM167Aの機能解明を端緒として、B細胞の活性化・分化における代謝制御機構について解析を行い、SLEのB細胞における代謝システムの異常に関する知見を得ることを目的としている。特に、自己免疫疾患においてB細胞の抗体産生細胞への分化は病態の重要な面を担っており、その過程におけるゲノム情報から、mRNA、蛋白質、代謝産物に至る情報の流れをunbiasに繋ぎ、ネットワークとしての制御機構を解明するトランスオミクス解析の手法を用いることにより、新規治療標的となり得る経路の同定が期待される。 2021年度は、2020年度におけるFAM167A遺伝子欠損マウス(以下FAM167A KOマウス)由来B細胞を用いたin vitroによる機能解析の結果、各種抗体産生細胞分化誘導刺激条件下で、培養上清中の免疫グロブリン産生異常を認めなかったことから、当初FAM167Aが関与すると予測された刺激条件下において、トランスオミクス的な見地からB細胞における代謝ネットワークを詳細に解明する方針に転向した。 前年度までにSLE患者末梢血免疫担当細胞毎のトランスクリプトームデータを用いた解析により、B細胞においてFAM167Aの発現量と正に相関し、注目している転写因子Xに関しても、この検証の過程で関与の有無を評価できると考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
胚中心B細胞や、抗体産生細胞であるPlasmablast/Plasma cellへの分化を誘導するin vitroの刺激系は複数存在する。SLEの病態を考える上では核酸抗原を認識するToll like receptor(TLR)7やTLR9を介した刺激が重要であると想定される。我々のSLEの末梢血リンパ球サブセットのトランスクリプトーム解析から、SLE B cellにおけるミトコンドリア酸化的リン酸化制御の重要性が示され(doi: 10.1136/annrheumdis-2021-221464)、TLR9とtype I interferon (IFN)の重要性を本論文で示していることから、現在human B cell lineを使用して、TLR9とtype I IFNの刺激が入った際に、どのように代謝システムが動くのかの検証を進めている。前段階として、B cell lineを上記刺激下で培養時に、これまでヒトB細胞を用いた刺激実験で認められたような培養後3日目における代謝変化を同様に認めることは確認済である。Human B cell lineであれば、条件毎に十分にサンプル数が確保されることが強みであり、刺激から時系列で、どの時点から細胞内の代謝が動きだすのかを実験的に見極めており、メタボロームやトランスクリプトームデータなどのオミックスデータを取る時点を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
当初はFAM167A KOマウスを用いた実験を主軸に考えていたが、遺伝子欠損による抗体産生への影響が乏しかったことを鑑み、元々注目していた自然免疫シグナル(TLR9)とtype I IFNのコンビネーションによるB細胞の抗体産生細胞分化における代謝変容の詳細なメカニズム解明を行うことに研究対象の方向を転換した。特に時系列でデータを収集するためには、ヒトprimary B細胞を用いた実験系には限界があることからhuman B cell lineによる検証を進めることとした。抗体産生細胞を分化誘導する刺激下で、酸化的リン酸化が亢進してくる時系列データは取得しつつある。これを参考に既知のリン酸化蛋白質などの動きがあるかをintracellular stainingで検討しながら、メタボロームデータやトランスクリプトームデータを取得すべき時点の検証を進める。これらデータ取得後は、解析により、どの時点からどのような転写や代謝の変化が起きているのかを見極め、トランスオミクス解析の手法も組み合わせて背景にあるSLEの病態に関連し得る抗体産生細胞の分化誘導のメカニズムに迫る知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までの研究成果に基づき、当初の遺伝子欠損マウスを使用した実験計画から、cell lineを使用した計画に方針転換したことに加え、所属研究機関の異動もあったために、実験立ち上げまでに時間を要した。このため、当該年度に予定していたメタボローム解析の外注まで進捗しなかったことから、次年度使用額が発生した。最終年度において、cell lineの実験により、メタボローム解析を中心に使用予定である。
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