研究課題/領域番号 |
20K08801
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉藤 元 京都大学, 医学研究科, 講師 (20422975)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | IgG4関連疾患 / 疾患動物モデル |
研究実績の概要 |
IgG4関連疾患は,全身の臓器に線維化を伴う炎症性病変をきたす疾患であり,日本の患者数は約20,000人とされる.進行すると視力障害,黄疸,腎不全,腹部大動脈瘤などをきたすことがあり問題となる.本疾患の特徴は,血清IgG4濃度上昇と,病変組織中のIgG4陽性細胞数増加である.ステロイドが有効であるが,中止困難であり副作用が問題となるため,新薬の開発による脱・ステロイドが望まれている.ヒトIgG4は,重鎖が折れ曲がっている等の特殊な構造を有するが,その機能は未解明である.マウスには同様の構造をもつサブクラスはないため,代表者らは「ヒトIgG4ノックインマウス」を作成した.本研究の目的は,IgG4の機能解明と,本モデルを用いた新薬投与実験により将来の治験の基礎データを得ることである.本研究では,まず,本モデルのさらなる改良を行った上で,in vitroでIgG4陽性細胞の機能を検討する.そして,in vivoで本モデルに治験薬候補を投与して血清IgG4濃度や病理所見の改善を検討するところまでを計画している.本モデルは,C57BL/6バックグラウンドで,血清IgG4上昇と脾細胞でのヒトIgG4の発現を認めたが,血清IgG4の発現は極めて軽微であった.本モデルを多発リンパ節腫脹をきたすMRL/lprマウスと交配したところ,血清IgG4濃度高値と病理組織上のIgG4陽性細胞を認めた.詳細に各病理組織を検討した結果,胃および膵組織において炎症細胞浸潤がIgG4KIマウスにおいてコントロールマウスよりも高度であった.すなわち,IgG4関連疾患様の所見を認めた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者らは,多施設共同によるIgG4関連疾患の疫学調査を主導し,ステロイド漸減中の再燃が30%と多いことを報告した.その調査の中で,CTLA4-Ig製剤などの新薬も試みられていた.CTLA4-Ig製剤などのT細胞-B細胞の相互作用を抑制するアプローチに期待が集まっているが,いまだ国内外で保険承認を得ていない.IgG4関連疾患への新薬候補を試すプラットフォームとすることを目的とし,マウスには同様の構造をもつサブクラスはないため,ヒトIgG4ノックインマウスの開発を行った.まず,C57BL/6バックグラウンドで,血清IgG4上昇と脾細胞でのヒトIgG4の発現を認めたが,血清IgG4の発現は極めて軽微であった.Balb/cバックグラウンドで検討したが,同様に血清IgG4の発現は軽微であった.多発リンパ節腫脹をきたすMRL/lprマウスと交配したところ,血清IgG4濃度高値と病理組織上のIgG4陽性細胞を認めた.詳細に各病理組織を検討した結果,胃および膵組織において炎症細胞浸潤がMRL/lpr-IgG4KIマウスにおいてMRL/lprマウスよりも高度であった.すなわち,IgG4関連疾患様の所見を認めた.
|
今後の研究の推進方策 |
代表者らは「IgG4は抑制性のIgGである」という仮説を立て,IgG4は特殊な構造のために架橋刺激に対する応答が弱まっているのではないかと予想しているが,解析の結果,MRL/lpr-IgG4KIマウスにおいて炎症所見はMRL/lprマウスよりも高度であった.予想と反する結果を得たため,それを検証する目的で,今後,本モデルの脾細胞を収集し,そのリンパ球サブセットおよび,リンパ球機能を検討する.具体的には,フローサイトメトリーや細胞ソーティング,リン酸化解析などを行う.リンパ増殖性疾患の動物モデルであるMRL/lprマウスとの交配などの改良により,本モデルにおいて,血清IgG4濃度高値と,病理組織でIgG4陽性細胞の増加,膵炎,胃炎などの所見を認めた.ところで,別のリンパ増殖性疾患の動物モデルであるIgG4関連疾患に表現型が類似するLATY136Fマウス(Yamada, PLoS One, 2018)は,唾液腺,膵で形質細胞が著増し,マウスIgG1陽性細胞が著明に増加することが知られている.また,LATY136FマウスはTh2優位となり,IgG4関連疾患の病態に地位あ.そこで,今後は,本モデルとLATY136Fマウスとの戻し交配を試みる.
|