研究課題/領域番号 |
20K08805
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研究機関 | 埼玉医科大学 |
研究代表者 |
梶山 浩 埼玉医科大学, 医学部, 講師 (90328386)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ヒドロキシクロロキン / ポドサイト / 細胞死 / 保護効果 / オートファジー |
研究実績の概要 |
ヒドロキシクロロキン(HCQ)は、全身性エリテマトーデス患者の生命予後、腎機能予後を改善する免疫調整薬であるが、網膜毒性や腎毒性の報告もある。本研究では、臓側糸球体上皮細胞(ポドサイト)の細胞株を用いて、HCQのポドサイトへの保護効果と細胞毒性及びその機序を検討することを目的とした。これまでに、マウス培養ポドサイトにおいて、10microg/mL未満の低濃度HCQが14日間の長期培養で細胞死を抑制すること、10~40microg/mLの高濃度HCQではその細胞内の顆粒および空胞形成が増加し、ポドサイトは細胞死に至ることが明らかになった。 また、HCQはライソゾーム系やオートファジーに影響を与えることが既報で明らかになっている事から、ライソゾーム・オートファジー系に関わる複数のキナーゼ阻害剤を用いて、高濃度HCQによるマウスおよびヒト培養ポドサイトの細胞死を抑制できるか検討したところ、一部のキナーゼ阻害剤で高濃度HCQによる培養ポドサイト細胞死を抑制できることが明らかになった。また、この細胞死を抑制するキナーゼ阻害剤が阻害活性を持つキナーゼのmRNA発現を確認したところ、マウスおよびヒト培養ポドサイトでの発現は亢進しており、このキナーゼが、高濃度HCQによる培養ポドサイトの細胞死において、重要な働きをしていると考えられた。 このキナーゼがリソゾーム形成に関わる転写因子TFEBの免疫蛍光染色を施行したところ、TFEBは高濃度HCQを加える前から核内へ分布しており、定常状態である程度、リソゾーム形成に関する経路が活性化していることが考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高濃度HCQのポドサイト毒性について、その機序の検討をする過程で、キナーゼ阻害剤で抑制されるという発見があり、キナーゼ関連の実験を追加施行したことにより、高濃度HCQによるポドサイト障害におけるポドサイト分化マーカー、ポドサイト傷害マーカー、ライソゾーム生合成、オートファジーの有無を確認する実験、高濃度HCQ毒性の機序解明の為の解析、また、低濃度HCQのポドサイト保護効果についての機序解明のための解析が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、高濃度HCQによる培養ポドサイト細胞死の機序について、ポドサイトマーカーの発現の変化、転写因子TFEB、TF3Bの核内分布の程度と発現の変化、オートファジーマーカーの発現の変化などについて、免疫蛍光法、ウェスタンブロッテイング法などで検討する。今年度後半には、RNAsq解析を行い、網羅的に高濃度HCQ処理によるポドサイト細胞死に重要なpathwayを明らかにしたい。 上記のキナーゼの検討、RNAsq解析の結果をもとに、来年の最終年度までに、実際のHCQ内服症例の血清と尿検体を用いて、実際の症例で、HCQによる網膜傷害や 腎傷害と関連のあるバイオマーカーを見出す臨床研究に入る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
高濃度HCQによる培養ポドサイトの毒性の機序を検討する過程で、ライソゾーム・オートファジーに関連するキナーゼの阻害剤が、高濃度HCQによる細胞死を抑制することが明らかとなった為、そのキナーゼに関する実験を行ったことから、高濃度HCQの細胞毒性の機序の解明のための実験(高濃度HCQによるポドサイト障害における、ポドサイト分化マーカー発現、ポドサイト傷害マーカー発現、ライソゾーム生合成やオートファジーの変化の検討)や、HCQの毒性、保護効果を明らかにする為の、網羅的なRNAseqの実験が未試行となった。その為に、次年度に繰り越す研究費が発生した。次年度には、これらの研究のうち、主に高濃度HCQによるポドサイト細胞死の機序の解明について重点的に進め、HCQ内服SLE症例の、HCQ網膜症やHCQ腎症のバイオマーカーの開発につなげたい。
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