研究課題
ヒドロキシクロロキン(HCQ)は、全身性エリテマトーデス(SLE)における標準治療薬であるが、およそ7-8%の症例で、HCQ網膜症を発症し、不可逆的な視力低下に陥る。また、稀ではあるが、HCQによるポドサイト障害も報告されている。したがって、本研究では、臓側糸球体上皮細胞(ポドサイト)の細胞株を用いて、HCQのポドサイトへの保護効果、細胞毒性、およびその機序を検討することを目的とした。これまでに、マウス培養ポドサイトにおいて、10 microg/mL未満の低濃度HCQが14日間の長期培養で細胞死を抑制すること、10-40 microg/mLの高濃度HCQでは細胞内顆粒および空胞形成が亢進し、ポドサイトが細胞死に至ることが明らかとなった。また、その後の検討で、培養網膜色素上皮細胞におけるHCQの毒性も、20-80 microg/mLの高濃度HCQで、ポドサイト同様に細胞内顆粒および空胞形成が亢進し、細胞死に至ることを明らかにした。HCQは細胞のlysosome-autophagy系に作用し、lysosomeとautophagosomeの癒合を抑制することが知られるが、JAK2が転写因子TFEBを介してlysosome生合成に関与することから、HCQの細胞死におけるJAK阻害剤の抑制効果を確認したところ、マウス及びヒトのポドサイト細胞株において、バリシチニブ、ウパダシチニブが、ヒト網膜色素上皮細胞株においては、ウパダシチニブが、濃度依存性に、HCQによる細胞死を抑制すことを見出し特許出願中である。マウス及びヒトのポドサイト細胞株においては、JAKのアイソフォームの中で、mRNAの発現は、JAK1が最も発現が高く、次いでTyk2の発現を認めた。現在、さらにlysosome生合成関連およびautophagy関連の転写因子、HCQ毒性と細胞老化との関連について、検討している。
4: 遅れている
HCQの毒性におけるJAK阻害剤の効果の検討は大きく進んだ一方、低濃度HCQによるポドサイト保護効果の検討が未施行であり、また、RNAseqによるHCQの毒性やJAK阻害剤によるHCQ毒性の抑制効果の分子機序の詳細な検討、およびその結果を応用した、HCQ内服SLE症例の血清および尿中のHCQの毒性マーカーの検討が未施行であり、遅れている、と判断した。
最終年度である次年度前半のうちに、高濃度HCQによる培養ポドサイト細胞死の機序の解明のため、ポドサイトマーカー発現の変化、転写因子TFEB、TF3Bの核内分布の程度と発現の変化、オートファジーマーカーの発現の変化について、免疫蛍光法、ウエスタンブロッテイング法で検討、次年度前半までに、RNAseq解析を行い網羅的に高濃度HCQ処理によるポドサイト細胞死で発現が活性化しているpathwayを明らかにする。また、最終年度後半には、RNAseq解析の結果をもとに、HCQ内服SLE症例の血清および尿を用いたHCQによる網膜障害や腎障害と関連のあるバイオマーカーを見出す臨床研究に入る予定である。
培養ポドサイト株やヒト網膜色素上皮細胞株の HCQによる細胞死をJAK阻害剤が抑制する結果を得て、その結果の再現性の確認や、HCQによる細胞死をJAK阻害剤が抑制する機序として、長期培養による細胞老化の抑制効果を検討していたこと、また、HCQによる細胞死をJAK阻害剤が抑制するという新しい知見の国内外への特許出願に時間を要し、RNAseqやその他の細胞培養実験を行う時間の確保が困難であったことが主な理由である。今後の使用計画は、HCQによる培養ポドサイトにおけるポドサイトマーカー発現の変化、RNAseq解析によるHCQの細胞毒性のpathwayを明らかにする、また、RNAseqの結果を参考に、HCQ内服患者におけるHCQ毒性モニターのためのバイオマーカーを発見する目的で行う臨床研究の準備の為に、助成金を使用する予定。
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