研究実績の概要 |
慢性特発性蕁麻疹(CSU)患者67人, 健常人(non-atopic healthy control ; NC)27人の血漿から, 固相抽出法で酸化脂肪酸を抽出し, 液体クロマトグラフィー質量分析計を用いて解析した。好塩基球活性化試験(BAT)を用いて脂質の好塩基球の活性化能を評価した。CSU患者群においてアラキドン酸代謝物の5-hydroxyeicosatetraenoic acid(HETE)とleukotrien (LT)C4およびLTE4がNCと比較して有意に高値であった。エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の代謝物では5-hydroxyeicosapentaenoic acid(HEPE),protectin (PD)1, resolvin(Rv)D2などがNCと比較して有意に高値であった。5-HETEは、末梢血好塩基球数とも有意な正の相関を示した。5-HETEの好塩基球への添加によりIgE依存性の好塩基球の活性化が増強された。重症度とは12-HETEおよび12-HEPEが負の相関関係を示した。 アトピー性皮膚炎(AD)患者31人, NC36人を対象に同様の検討を行った。AD患者群においては, アラキドン酸代謝物ではthromboxane(TX)B2がNCと比較して有意に高値であった。一方, prostaglandin(PG)D2, PGF2α, 5-oxo-eicosatetraenoic acid(ETE),lipoxin(LX)A4, LXB4, 8-HETEはNCと比較して有意に低値であった。エイコサペンタエン酸とドコサヘキサエン酸の代謝物ではAD患者群において全体的に脂質メディエーターは低い傾向にあったが, RvD2のみがNC群よりも有意に高値であった。ADにおいては炎症・抗炎症脂質メディエーターのバランスの破綻が病態に関与していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
慢性特発性蕁麻疹(CSU)患者, アトピー性皮膚炎(AD)患者および健常人の血漿中の脂質メディエーターの網羅的比較解析は終了し, 各疾患の特徴的な脂質メディエーターのプロファイルは同定できた。また,各疾患の重症度と統計学的有意な相関をもつ脂質メディエーターも同定された。現在はそれら特異的脂質メディエーターの各疾患での病態への関与に関してin vitroの実験系で解析を進めている。例えば5-hydroxyeicosatetraenoic acid(HETE)の好塩基球への添加によりIgE依存性の好塩基球の活性化が増強され,さらに5-HETEはCSU患者において統計学的有意に増加を認めたため, 5-HETEの好塩基球の活性化への関与が示唆された。 AD患者血漿中で検出された脂質メディエーターについて病態との関連を検討したところ, lipoxin(LX)A4と12-hydroxyeicosapentaenoic acid(HEPE)はADの重症度と有意な負の相関関係を認めた。LXA4に関しては,血清IgE値と有意に相関していた。すなわちLXA4の血漿中の濃度が低い程, 血清IgE値は高く, ADは重症であることが明らかになった。LXA4が ADの重症度を反映するバイオマーカーとなる可能性が示唆された。
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