研究課題
本研究では、全身性強皮症(SSc)に伴う心病変のメカニズムを炎症細胞、特に骨髄由来の単球に注目して追究する。継続的な心筋の虚血・再潅流傷害に対して骨髄から動員されたM2-SScが心筋にリクルートされ、線維化を促進することでSScに特徴的な心筋病変を形成するという仮説を検証するため、今年度はまずSSc患者心筋の網羅的遺伝子発現解析を行う準備を進めた。施設倫理委員会の承認手続きを経て、当院で診療実績のあるSSc症例の中から心病変を有する例、および対照として左室収縮不全を有する非虚血性心筋症もしくは拡張型心筋症の症例を抽出した。すでに複数の研究対象者をリクルートし、心筋生検が実施された際の残余心筋組織、末梢血検体を収集している(SSc群5例、対照群4例)。さらに、得られた心筋の解析手技確立のため、マウス心筋およびブタ心筋を模擬組織として用いてRNA抽出やqPCR、心筋組織免疫染色を行った。予想されるRNA収量やBioanalyzerを用いた分解度測定、心筋中に含有すると考えられるマクロファージ数の推定等を行い、実行可能性を事前検証した。さらに、網羅的なRNA-seqの結果を解析するツールとしてブラウザ上で解析可能なMetascaperによる公開データを用いた模擬解析を行い、遺伝子解析スキルを向上させた。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナ蔓延期のため症例のリクルート、心筋組織の確保が困難であった。本来であれば症例収集の上で年度内にRNA-seq解析までを実施する予定であったが、解析のために受託業者へ凍結心筋を送付する時期が翌年度4月となった。この間に模擬組織を用いて実験手技を確立し、さらに公開データベースを用いた遺伝子解析手法を習得し、解析結果が得られ次第、速やかに研究が進められる準備を行った検体収集に時間を要したが、おおむね順調に進捗している。
心病変を有するSSc患者の残余検体(心筋生検)を用いて、網羅的RNA-seq解析を行う。SSc心筋と対照心筋から得られたRNA-seqデータを比較し、SSc心筋に特徴的な発現変動遺伝子(DEG)を抽出し、パスウェイ解析を行う。先行研究も参考にして、特に単球やマクロファージのパスウェイに関連した遺伝子の候補遺伝子を選択し、qPCR及び心筋組織の免疫染色によるvalidationを行う。SSc心筋で高発現する遺伝子が抽出されれば、それら遺伝子の蛋白発現を免疫組織染色で確認し、さらに末梢血単核球を用いた解析でそのオリジンを同定する予定である
新型コロナ蔓延期のため症例のリクルート、心筋組織の確保が遅れ、検体処理に必要な試薬の購入分が繰り越しとなった。
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