研究課題
本研究では、全身性強皮症(SSc)に伴う心病変のメカニズムを炎症細胞、特に骨髄由来の単球に注目し、病態形成に関連する要因や制御機構、発現遺伝子解析を通じて明らかにすることを当初の目的としていた。その根拠として、先行する研究でSScに特徴的な血管障害に起因した継続的・反復的な心筋の虚血・再潅流傷害に対して骨髄から動員された単球・マクロファージなどの炎症細胞が心筋局所に集簇し、線維化を促進することでSScに特徴的な心筋病変を形成することが示されていたからである。施設倫理委員会の承認手続きを経て、当院で診療実績のあるSSc症例の中から心病変を有する例、および対照として非虚血性心筋症もしくは拡張型心筋症の症例を抽出し、病理診断目的に実施された心筋生検の残余検体を用いて2群間でRNA-seqを実施した。その結果、単球・マクロファージなどの炎症細胞関連遺伝子の発現はきわめて低く、同時に行った心筋組織の病理学的解析でも、浸潤炎症細胞はほとんど観察されなかった。そこで、バイアスなしに遺伝子発現情報を解析し、抽出された2群間の発現変動遺伝子(DEGs)をエンリッチメント解析し、SSc心筋で特徴的に変動するいくつかのパスウェイを同定した。今後は公開されているヒト心筋トランスプリプトーム解析のデータを合わせた統合解析を実施し、さらにSSc心筋に特徴的な発現プロファイル・パスウェイを追究する。今回RNA-seq解析を実施した対象者とは異なるコホートにおいて再現性を検証予定である。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナ蔓延期のため当初の予定よりも症例のリクルート、心筋組織の確保に時間を要したが、令和3年度6月にRNA-seqを実施し、得られたデータから両群比較によって発現変動遺伝子(DEGs)を抽出し、GSEA/GOなどの計算手法・データベースを用いたエンリッチメント解析を実施した。現在のところ疾患群で変動する遺伝子群・パスウェイ解析の同定は一通り終えており、概ね順調に進捗している。
今後は既存公開トランスクリプトームデータとの統合解析を実施し、SSc心筋に特徴的な遺伝子プロファイルの解析を試みる。統合解析を含めたデータ解析により導出される疾患に特徴的な遺伝子・パスウェイについて、他のコホートを用いた発現遺伝子の検証、さらに単球・マクロファージに関連したケモカイン等の発現を末梢血単核球(PBMC)のフローサイトメトリ、心筋免疫組織染色などの方法でも検証していく予定である。
次年度に既存公開トランスクリプトームデータとの統合解析を予定しており、その解析ソフトウェアの費用を繰り越したため。一部のデータが年度内に未公開であったため使用できなかった。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 4件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 4件、 招待講演 1件)
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