研究課題/領域番号 |
20K08817
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石和田 稔彦 千葉大学, 真菌医学研究センター, 准教授 (30344980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / 13価肺炎球菌結合型ワクチン / 長期免疫原性 / ハイリスク |
研究実績の概要 |
定期接種対象年齢外のハイリスク者に対する13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)接種の免疫原性に関する研究に関して、血液腫瘍性疾患および造血幹細胞移植後の患者でPCV13未接種の者のうち、PCV13接種を希望された者を対象に研究への参加を求めた。その結果、小児30名、成人8名の同意を得ることが出来た。対象者に対して、PCV13接種前、接種後1か月、6か月時の定期受診に採取された血液の残検体を保存した。保存検体を用いてPCV13に含まれる血清型(1、3、5、6A、7F、19A型)の血清型特異的抗体価とオプソニン活性(OPA)の測定を行った。 対象者の中で、PCV13接種による重篤な副反応を呈した者はいなかった。PCV13接種前後で、7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)に含まれず、PCV13に含まれる6血清型全ての特異抗体価の有意な上昇が確認された。血清型3型に関しては、特異抗体価の上昇は他の血清型と比較し低値であったが、OPA活性に関しては、有意な上昇が確認された。また、ワクチン接種時点での肺炎球菌保菌の有無に関する培養検査を実施した。 乳幼児期に接種されたPCV13の長期免疫原性に関する検討に関しては、新しく開発されたPCV13に含まれる全ての血清型に対する抗体を同時に測定するELISA法に関して、validationを行った。陽性コントロール、陰性コントロールを用いて検討を行い、陽性基準、陰性基準を決定した。 Validation後に、エコチル調査の一環として保存されている70例の検体を用いてPCV13に含まれる全ての血清型に対する抗体価を上記ELISA法を用いて測定した。測定は、臍帯血と2歳時点での保存検体を用いて行った。現状では一部の検体の検討結果ではあるが、全ての症例に関して、2歳の時点で、PCV13含有血清型に対する高い抗体価が維持されていることが確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定期接種対象年齢外のハイリスク者に対する13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)接種の免疫原性に関する研究に関しては、血液内科と小児科の協力により、目標とする対象症例数を達成することが出来た。 また、全ての対象者が安全に接種を受けたことが確認できた。抗体測定のための検体保存に関しては、接種後6か月、接種後12か月後の対象者でまだ、採取されていないものがあり、今後、順次保存していく予定となっている。特異抗体価測定とOPA活性の測定は順調に行っているが、メモリーB細胞の解析に関しては、保存検体からの解析において、十分な数のメモリーB細胞が確保されず、現在、血清型を絞った形での解析を検討しているところである。 PCV13に含まれる血清型に関する抗体応答は確認できたが、対象としてPCV13に含まれていない血清型において、抗体応答が認められないことを確認した方が良いと考え、抗原が入手可能な血清型に関する特異抗体測定を行うための準備を開始した。肺炎球菌の保菌状態に関しては、分離された菌株を保存し、今後血清型解析を検討している。 乳幼児期に接種されたPCV13の長期免疫原性に関する検討に関しては、抗体測定法のValidationが予定通り終了し、抗体価の測定を開始した。エコチル調査の保存検体として5歳時、7歳時のものが保存されており、今後臍帯血と2歳時の検体の測定終了後、順次測定を行っていく予定としている。 なお、PCV13の抗体測定維持の状況と比較するため、同じく乳児期に接種を開始するインフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンに含まれるHibに対する特異抗体価を測定し、比較することを検討している。Hib特異抗体価に関しては、ELISA法による測定系を確立しており、検討することが可能な状況にある。 データの解析に関しては、全ての検体の測定が終了してから実施することを予定している。
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今後の研究の推進方策 |
定期接種対象年齢外のハイリスク者に対する13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)接種の免疫原性に関する研究に関しては、接種6か月、12か月後における特異抗体価とOPA活性を測定することにより、PCV13 1回接種によりどの程度免疫原性が維持されるのかを確認することが可能となる。また、メモリーB細胞の解析を行うことにより、抗体測定以外の方法での免疫原性の確認が可能となる。検体は全て順調に保存されているので、順次解析を行うことにより、目標とする結果が得られることが期待できる。 乳幼児期に接種されたPCV13の長期免疫原性に関する検討に関しても、抗体価の測定系は確立出来ており、5歳時、7歳時の抗体価を測定することにより、乳児期に接種したPCV13の免疫原性がどこまで維持されるのかを明らかにすることが出来ると考えている。さらに、Hib特異抗体価との比較により、複数の細菌感染症に対するワクチンの免疫原性の違いを明らかにすることが可能となる。このことは、健常児に対するPCV追加接種の必要性に関する情報を提供する。 本研究を継続することにより、根幹となる「将来的なPCV13,さらには含まれる莢膜血清型を増やした次世代型のPCVをどのように接種していくことがベストであるのか?」という本研究の問いに対して、エビデンスをもって回答することが可能となる。 なお、本研究開始直後の、2020年5月に国内でのPCV13接種の適応が拡大され、全ての年齢の肺炎球菌感染症ハイリスク者に対して、任意接種ワクチンとしてPCV13を接種をすることが可能となった。PCV13を保険適応外でなく接種出来ることは、本研究成果を、国の肺炎球菌ワクチンによる肺炎球菌感染症予防の指針に反映させることをより具体化することが出来ると考えられる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究に用いる肺炎球菌特異抗体測定用の試薬、消耗品の使用量が当初予定していたものより、少なく済んだため、費用の支出が少なかった。また、新しいELISA法のValidationが順調に進んだため、試薬消耗品の費用を抑えることが出来た。 今後、保存されている検体の血清型特異的抗体価測定用試薬、オプソニン活性測定用試薬とメモリーB細胞機能解析用の試薬および測定に使用する消耗品、オプソニン活性用の細胞を購入する予定であり、その費用として使用する。また、追加で測定することを検討している血清型の抗体測定用の試薬、消耗品費として使用する予定である。 新型コロナウイルス感染症の流行により、今年度は学会参加が出来なかったので、旅費を使用しなかったが、次年度は、研究成果を積極的に学会で発表することを予定している。
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