研究課題/領域番号 |
20K08817
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
石和田 稔彦 千葉大学, 真菌医学研究センター, 教授 (30344980)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 肺炎球菌 / 13価肺炎球菌結合型ワクチン / 免疫原性 / ハイリスク / オプソニン活性 / メモリーB細胞 |
研究実績の概要 |
本年度は、13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)接種を行った6-64歳の血液腫瘍疾患患者を対象とし、PCV13に対する免疫応答について解析を行った。免疫原性評価は、初回接種前、接種1か月後、6か月後のPCV13含有血清型(血清型1,3,5,6A,7F,19A)特異的IgG抗体(Pn-IgG)および特異的オプソニン活性(Pn-OPA)により行った。解析手法はPn-IgGはELISA法を用いて、Pn-OPAはMOPA法を用いて行った。十分量の検体が採取できた一部の患者に対しては、PCV13接種前と初回接種6か月後の血清型3に対する特異的メモリーB細胞数(Pn-MBC)をELISPOT法を用いて測定した。 37名(小児科患者30名、血液内科患者7名)で検討を行った。PCV13接種後のPn-IgGの幾何平均抗体価(GMC)の推移に関しては、小児科患者、血液内科患者ともに血清型3以外の5血清型において接種1か月後より有意に上昇し、6か月時においても感染防御レベル以上で維持されていたが、血清型3においては有意な上昇が得られなかった。 Pn-OPAのGMCの推移については、Pn-IgGの推移と異なり、血清型3を含む全血清型において接種1か月後で有意な上昇を認めた。小児科患者では、単回接種後に有意な上昇を認め、接種6か月後まで十分な力価の維持ができていた。血液内科患者では、初回接種1か月後に有意の上昇を認めたが、小児科患者ほどの上昇は得られず、その後2回の追加接種を行うことで、接種6か月後に小児科患者同様まで力価上昇が得られていた。 対象患者のうち10名(小児科患者6名、血液内科患者4名)において血清型3肺炎球菌に特異的なPn-MBCを測定した。PCV13接種後、9割の患者において少なくとも1つのスポットを同定し、7割の患者で接種前と比較しスポット数の増加を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定期接種対象年齢外のハイリスク者に対する13価肺炎球菌結合型ワクチン((PCV13)接種の免疫原性に関する研究に関しては、小児科医師と血液内科医師の協力により目標症例数を達成することが出来た。 PCV13接種後の安全性評価については、対象症例について情報収集が終了した。免疫原性評価のための検体採取についても全て終了し、接種後6か月までの免疫学的な解析(血清型特異抗体価測定とオプソニン活性測定)を終了し、その結果を公表することができた。 また、前年度の懸案事項であったメモリーB細胞の解析については、ワクチン接種において特異抗体上昇が悪いが、オプソニン活性の上昇が認められる血清型3について測定法を確立でき、実際にPCV13接種者の検体を用いて経時的な測定を行うことができ、特異抗体価とオプソニン活性の結果の乖離について新しい知見を得ることができた。 PCV13に含まれない血清型の特異抗体測定系の確立については、PCV13に含まれないが23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチンに含まれる血清型10Aについて確立することができ、試験的に測定を行うことが出来た。 全てのPCV13血清型の網羅的な特異抗体測定について、ELISA法での測定系を確立し、簡便にPCV13の免疫原性を評価できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
定期接種対象年齢外のハイリスク者に対する13価肺炎球菌結合型ワクチン((PCV13)接種の免疫原性に関する研究に関しては、今年度は、接種後12か月での免疫学的な評価を行い、PCV13を1回接種した群と3回接種した群での比較検討を行い、ハイリスク患者に対する肺炎球菌ワクチンの理想的な接種プログラム確立に向けての科学的な根拠を得る。 PCV13に含まれない血清型の特異抗体測定系の確立については、血清型10Aについて確立した。血清型10Aは、PCV13普及後問題となっている血清型の1つであり、23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(PPSV23)に含まれる血清型である。血清型10Aによる侵襲性肺炎球菌感染症罹患者の検体を用いて、血清型10Aに対する特異抗体測定を行うことで、ハイリスク者におけるPCV13とPPSV23の連続接種を勧める上での重要な情報を得る。 全てのPCV13血清型に関する網羅的な抗体測定について、ELISA法での測定系により、簡便に評価することが可能となったので、この測定法を用いて、様々な肺炎球菌感染症ハイリスク患者のPCV13の有効性について、免疫原性の評価を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
免疫原性の評価に用いる試薬、消耗品の費用が当初予定していたより少ない金額で済んだ。令和4年度は、まだ測定を行っていない検体の免疫学的解析のための、試薬、消耗品を購入予定である。 前年度にひき続き新型コロナウイルス感染症の流行により、学会出張を控えたため旅費を使用しなかった。令和4年度は最終年度であり、研究成果を積極的に学会で発表するための費用にあてたい。 また、新たに確立した網羅的な抗体測定法を用いたハイリスク者の13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)接種前後の免疫原性評価のための試薬、消耗品を購入する。実際に抗体測定を行い、結果をまとめ論文化の費用に使用する予定である。
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