研究課題/領域番号 |
20K08820
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小川 栄一 九州大学, 医学研究院, 助教 (70621283)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | C型肝炎ウイルス / 肝細胞癌 / 非アルコール性脂肪性肝炎 |
研究実績の概要 |
本研究は、C型肝炎ウイルス(HCV)の持続感染に対して経口抗ウイルス薬(DAA)を投与することにより、HCV排除を達成した高齢者を対象とし、新規肝線維化・脂肪化評価装置を用いた実臨床データを基に、HCV遺伝子解析や脂肪性肝炎・インスリン抵抗性に関連したゲノムワイド関連解析を実施するものである。 HCV持続感染の背景として、DAA治療によりほぼ100%でHCV排除が可能となったがにも関わらず、一定の割合で肝硬変、肝不全、肝細胞癌を発症する症例が存在する。HCV自体に脂肪肝炎や糖尿病を惹起する作用があることから、従来のウイルス学的解析に加え、生活習慣病に関連した視点から肝病態を探る必要がある。 本年度の研究では、2020年3月までにDAA治療でHCV排除が達成された290例を研究対象とした。全例に対して定期的なフィブロスキャン測定を試み、更に同意が得られた267例に対してPNPLA3遺伝子(rs738409)を測定した。また、NASHの線維化評価の指標として、FAST scoreを用いた。経過観察中に16例(5.5%)で肝癌を発症し、FAST score>0.35群と<0.35群の3年累積発癌率は、それぞれ15.8%および3.0%(Log-rank: P<0.001)であった。また、PNPLA3 GG群の累積発癌率は、CG群およびCC群に比べて高値であった(Log-rank: P=0.06)。PNPLA3遺伝子、治療後のALT値、AFP値、FIB-4値、NAFLD fibrosis scoreなどを含めた多変量解析では、FAST score>0.35(aHR 4.42、P=0.04)が肝癌予測因子として抽出された。 本年度の研究結果より、NASH関連因子を盛り込んだFAST scoreおよびPNPLA3遺伝子は、HCV排除後の肝癌予測に有用である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の主目的である、C型慢性肝炎症例のHCV排除後の肝癌と脂肪性肝炎との関連性については、遺伝子多型(PNPLA3遺伝子)やNASH関連肝線維化評価(FAST score)を測定することにより、示すことができた。この件に関しては、原著論文で発表することができ、現時点での進捗状況は良好である。
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今後の研究の推進方策 |
更なる遺伝子多型とHCV排除後の肝癌との関連を明らかにし、肝癌リスク評価法を検証することが必要である。例えば、その他の宿主遺伝子(PNPL3、GCKR、RNF7、MICA、MLH1、ALDH2、TLL1)にも注目し、背景因子・生化学的検査・インスリン抵抗性・肝線維化・脂肪化を含めて、肝発癌の特徴を明らかにする。また、肝癌再発においても、同様な肝癌リスク評価が可能であるかを調査する。
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