研究課題/領域番号 |
20K08823
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
津々木 博康 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 助教 (40586608)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細菌毒素 / 腸管出血性大腸菌 / レドックス / 小胞体ストレス |
研究実績の概要 |
Subtilase cytotoxin (以下SubAB)は、腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli, EHEC)O113:H21株から新規の毒素として同定された。SubABは、一つのAサブユニットと5つのBサブユニットから構成されるAB5型毒素である。SubABは宿主細胞に侵入すると逆行性輸送により小胞体(ER)に移行する。Aサブユニットはセリンプロテアーゼ活性をもち、ERのシャペロン蛋白質BiPを切断することで宿主細胞にERストレス性の細胞死を誘導する。本邦でもEHEC感染症の患者からSubAB遺伝子を有する菌株が散発的に同定されており、新たな病原因子として重要視されている。 SubABのAサブユニットには一対のジスルフィド結合(S-S結合)が形成されており、チオール基を介したレドックス調節(S-S結合の還元など)による活性化が示唆される。そこでSubABの毒性発現に関与する宿主レドックス調節蛋白質の探索を目的とした。siRNAを用いたノックダウン実験から、ジスルフィド結合の転移酵素であるProtein disulfide isomerase (PDI)がSubABを活性化し、BiPの切断を誘導する宿主レドックス調節分子であることを報告した(Tsutsuki H. et al, 2020)。さらに、阻害剤を用いた実験からSubABの毒性に関わるその他の宿主レドックス調節蛋白質の候補を見出した。CRISPR-cas9システムを用いて遺伝子欠損(KO)細胞を樹立し解析を行ったところ、SubABの病原性発現に関与することが確認された。一方、各種試薬処理した細胞実験から、一酸化窒素がSubABによるBiPの切断を減弱することを見出した。今回同定した宿主候補蛋白質が一酸化窒素の標的となるかどうかについて現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
SubABの病原性に関わる宿主候補タンパク質の解析は予定より順調に進み、詳細な知見を得ることができた。一方、候補タンパク質のKO細胞の樹立や阻害剤の探索に時間を要したことでやや遅れていると判断した。今後さらに多くの宿主候補因子の同定を目指している。
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今後の研究の推進方策 |
SubABの病原性発現に関与する宿主蛋白質の探索に引き続き取り組む。またすでに候補となっている蛋白質のKO細胞を用い、SubABの病原性発現メカニズム、レドックス調節メカニズムの詳細を調べ、新たな阻害剤の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に購入を予定していた試薬、ディスポーザブルプラスチック製品の納期が年度内に間に合わなくなったため未使用額が生じた。また、新型コロナウイルス感染症の発生状況により多くの学会がオンライン発表となり、当初予定していた旅費を物品購入に使用する必要が生じた。当該年度に購入できなかった試薬などの物品は次年度に購入予定である。
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