研究課題/領域番号 |
20K08826
|
研究機関 | 杏林大学 |
研究代表者 |
松田 剛明 杏林大学, 医学部, 教授 (80365204)
|
研究分担者 |
花輪 智子 杏林大学, 医学部, 教授 (80255405)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ファージ療法 / 多剤耐性菌感染症 / メチシリン耐性黄色ブドウ球菌 / 創部感染 / 黄色ブドウ球菌ファージ |
研究実績の概要 |
増加している多剤耐性菌の感染症に対して抗菌薬以外の治療法が必要となっている。中でもバクテリオファージ(ファージ)を感染症治療に用いるファージ療法は、米国を中心に社会実装に向けて臨床試験が進められている。申請者らは、代表的な多剤耐性菌であるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を標的にして、マウス創部感染モデルを用いたファージの作用について解析を行なっている。 ファージは細菌に感染するウイルスであり、ヒトの免疫系に認識されて免疫応答を引き起こす。ファージ療法においてヒトの免疫系がファージに対して反応することが考えられるが、その影響について解析した報告は少ない。そこで本課題では、マウスの背面に皮膚切除部位を作成し、そこにファージ感受性または非感受性のMRSA臨床分離株を接種し、ファージを投与し、創部の細菌数、炎症性サイトカインの産生、および組織の病理学的変化を解析した。 ファージには申請者らが共同研究者である丹治らと共に2018年に都市部下水流入水から単離した黄色ブドウ球菌ファージであるphiMR003を用いた。これはMRSA臨床分離株に対して広い宿主域を示す。ファージ感受性株であるKYMR116を接種したマウス創部にファージを添加した場合、菌数は急激に減少し、創部病態は顕著に改善した。一方、非感受性菌であるKYMR58をマウス創部感染に用いた場合にも約1/100の菌数減少がみられ、さらに好中球の減少、炎症性サイトカインの産生低下、病態の早期改善がみとめられた。また、腹腔マクロファージを用いて検討を行なったところ、刺激せずにファージを添加した場合には炎症性サイトカインの発現量に変化はみられなかったが、LPSで刺激してファージを添加した場合には炎症性サイトカインの発現が有意に低下した。これらの結果からファージには免疫を介して感染病態を改善する効果のあることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、マウス創部における粗精製ファージ(ファージライゼート)を用いてその影響を調べ、その後に精製ファージの影響を検討する計画であったが、精製ファージをコントロールとしてin vivoにおける溶菌活性などを比較するため、まずは創部にMRSAを接種し、その直後に精製ファージを投与することで in vivoにおけるファージの作用を検討した。その結果ファージ自体の効果を明らかにすることができたものと考えている。これらの結果をふまえ2023年度にはファージライゼート投与の影響を調べる予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
マウスの創部にファージ感受性のMRSA感染を投与すると2日後には膿瘍が形成され、感染が成立する。以前の検討ではファージ感受性菌を接種し、膿瘍が形成された後に粗精製ファージ(ファージライセート)を投与すると約1/7程度、菌数が減少したが、精製ファージを投与した場合にはファージ非投与群と同等の菌数が検出された。これらの結果より粗精製のファージには精製ファージにはない効果があることが予想された。 既報では、ファージはウイルスでありながら炎症を惹起しない一方で、炎症を抑制する効果のあることも示唆されている。申請者らが行なった実験でも精製ファージを腹腔マクロファージに添加しても炎症性サイトカイン産生量は影響しなかった一方で、LPS刺激して誘発される炎症性サイトカインの発現が抑制された。さらに、精製ファージをマウス創部に添加しても炎症は惹起されないが、加熱して不活化したファージをマウス創部に添加すると炎症性サイトカインが増加した結果を得ている。従って、活性のあるファージには何らかの免疫調整作用のある可能性が考えられる。 ファージライゼートには、ファージと死菌の菌体成分が含まれていることから、ファージライゼートの感染創部への影響を検討するため、ファージそのものの影響と菌体成分に対する影響を解析する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
支払いにより生じた端数であり、新たに物品を購入するには及ばなかったため、2023年度の消耗品購入時に使用する予定である。
|