研究課題
多剤耐性菌の感染症に対して抗菌薬以外の治療法が必要となっており、中でもバクテリオファージ(ファージ)を感染症治療に用いるファージ療法は、米国を中心に社会実装に向けて臨床試験が進められている。一方で国内における研究は少ない。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は代表的な多剤耐性菌であり、日本でも患者数は多い。ファージは細菌に感染するウイルスであり、ヒトの免疫系に認識されて免疫応答を引き起こす。ファージ療法においてヒトの免疫系がファージに対して反応することが考えられるが、その影響について解析した報告は少ない。そこで本課題では、マウスの背面に皮膚切除部位を作成し、そこにファージ感受性または非感受性のMRSA臨床分離株を接種し、ファージを投与し、創部の細菌数、炎症性サイトカインの産生、および組織の病理学的変化を解析した。ファージには申請者らが共同研究者である丹治らと共に2018年に都市部下水流入水から単離した黄色ブドウ球菌ファージであるphiMR003を用いた。これはMRSA臨床分離株に対して広い宿主域を示す。ファージ感受性株であるKYMR116を接種したマウス創部にファージを添加した場合、菌数は急激に減少し、創部病態は顕著に改善した。一方、非感受性菌であるKYMR58をマウス創部感染に用いた場合にも約1/100の菌数減少がみられ、さらに好中球の減少、炎症性サイトカインの産生低下、傷の修復と関連しているVEGF量が増加し、病態の早期改善がみとめられた。腹腔マクロファージを用いて検討を行なったところ、刺激せずにファージを添加した場合には炎症性サイトカインの発現量に変化はみられなかったが、LPSで刺激してファージを添加した場合には炎症性サイトカインの発現が有意に低下した。これらの結果からファージには免疫を介して感染病態を改善する効果のあることが示唆された。
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