研究課題/領域番号 |
20K08828
|
研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
宮崎 治子 東京医科大学, 医学部, 准教授 (10527948)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | type 1 pilus / 肺炎球菌 / 付着因子 |
研究実績の概要 |
肺炎球菌は現在100種類の血清型を持つことから、現行の肺炎球菌ワクチンはすべての血清型を予防できない。定期接種開始後に臨床材料から収集した肺炎球菌株で最も多く分離された非ワクチン血清型35Bは、rlrA isletにコードされる繊毛 type 1 pilusのサブユニットRrgC遺伝子を高率に保有していた。また、rrgC陽性株はペニシリンのMICが1μg/mL以上の株で高頻度であった。Piliは気道上皮細胞に結合する付着因子であり、宿主の炎症反応を惹起すると報告されているが、病原性への関与や薬剤に対する影響はまだ不明な点が多い。そこで、type 1 pilusの定着における働きと薬剤耐性化への寄与の解明、およびrrgC発現抑制薬による定着予防および治療を目的として研究を行っている。今年度は、始めに地域の総合病院で収集された肺炎球菌785株を用いて、血清型35B肺炎球菌臨床株のPilus遺伝子保有率とβラクタム薬非感受性率が他の血清型株と比べて高いことを論文として発表し、学会でも報告を行った。また、臨床分離35B株を用いてA549肺胞上皮細胞への付着を観察する実験を行い付着性が高い株を選択した。一方、相同組み換えを用いたrrgC欠損株および相補株を作製中である。この遺伝子欠損株および相補株の細胞付着性や薬剤感受性を比較することによって、type 1 pilusの定着における働きと薬剤耐性化への寄与を検討する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
血清型35Bは多くが繊毛を持つことによって定着率を高めているのではないかと考えたため細胞への付着を観察したところ、type 1 pilus遺伝子を持つ株と持たない株で明らかな付着性の違いは確認できなかった。実験法を検討し35B収集株の中から付着性が高い株を選択することに時間を要した。
|
今後の研究の推進方策 |
【令和3年度】1. rrgC欠損株およびその相補株作製: 選択した付着性が高い血清型35B株から相同組換えを用いて作製する。2. type 1 pilusの肺炎球菌定着における役割の解明: (1) 細胞付着性観察: A549細胞をプレートに培養し、親株、rrgC欠損株およびその相補株を培養し菌量を調整して加え、反応後に洗浄し、付着率を測定、評価する。3. type 1 pilusが薬剤感受性に与える影響の評価: 親株、rrgC欠損株およびその相補株を培養しβラクタム薬(ペニシリン他)の薬剤感受性を測定して type 1 pilusの薬剤感受性への関与を評価する。 【令和4年度】1. マウス鼻咽頭定着測定:C57BL/6マウスに作製した各株を経鼻注入後、24時間および72時間後の鼻咽腔洗浄液を回収して菌数を定量培養することにより定着を評価する。2. Pilus遺伝子発現抑制薬の検索と定着予防・治療への応用 (1) rrgC発現抑制薬検索: 定量RT-PCRを用いて、rrgC発現を抑制する薬剤を検索する。 これらの検討によって、1)非ワクチン血清型の中でも血清型35Bの検出が定期接種開始後に増加した原因としてtype 1 pilusにより定着しやすいことが関与するのか、2)type 1 pilusは薬剤感受性に影響を与えるのか、3)Pilus発現抑制による定着予防、治療が期待できるかという問いの解明を目指す。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究計画に沿って実験を開始したものの遅れが生じたため、初年度に予定していた実験に必要な費用のうち一部を使用できなかった。令和3年度には遅れた実験を含めて助成金を使用し研究を進める。
|
備考 |
パンフレット作成 肺炎のおはなし-肺炎への理解と予防のために- 東京医科大学発行 2020年 12ページ
|