研究課題
肺炎球菌は100種類の血清型が報告されており、肺炎球菌定期接種開始後、ワクチンに含まれない血清型による感染症の割合が増加している(血清型置換)。私達が臨床材料から収集した肺炎球菌株の検討で最も多く分離された非ワクチン血清型35Bは、RrgC遺伝子(RlrA isletにコードされる繊毛 type 1 pilusのサブユニット)を高率に保有しており、また、rrgC陽性株はペニシリンのMICが1μg/mL以上の株で高頻度であった(Miyazaki H, et al., 2020)。Piliは気道上皮細胞に結合する付着因子であり、宿主の炎症反応を惹起すると報告されているが、病原性への関与や薬剤に対する影響はまだ不明な点が多い。そこで、血清型35Bにおけるtype 1 pilusの定着における働きと薬剤耐性化への寄与の解析、およびpilus発現抑制薬による定着予防および治療を目的として研究を行い下記の結果を得ている。臨床分離35B株(86株)のA549肺胞上皮細胞への付着率を比較検討し、付着性が高い株を選択し、相同組み換えを用いてpilus欠損株を作製して細胞付着性や薬剤感受性を比較した。(1) 細胞付着性: A549細胞をプレートに培養し、親株およびpilus欠損株を菌量調整して加え反応後に洗浄、付着率を測定した。その結果、株により程度差があるが欠損株では付着率が低下することが示され、また、上皮細胞に接触することにより菌のrrgC遺伝子の発現が亢進していた。(2)type 1 pilusが薬剤感受性に与える影響の評価: 親株およびpilus欠損株を用いて各種抗菌薬の薬剤感受性を測定し、type 1 pilusの薬剤感受性への関与を評価した。その結果、明らかな差異を認めなかった。結果を基に目標とする肺炎球菌感染症の予防および治療の研究へと発展させたいと考えている。
3: やや遅れている
昨年度は35B収集株の中でtype 1 pilus遺伝子を持つ株と持たない株間で有意な付着性の違いが確認できず、他の多くの付着因子や莢膜の影響が考えられたため、収集株の中から付着性が高い株を選択し変異株を作製するまでに時間を要した。今年度は欠損株を用いた実験が進められたが、動物実験については進められていない。
【令和4年度】1. type 1 pilusに対する生体の反応の検討:マウスマクロファージを用いてpilusが与える作用および反応についてサイトカイン測定を行う。2. マウス鼻咽頭定着測定:C57BL/6マウスに各株を鼻腔注入後、24時間および72時間後の鼻咽腔洗浄液を回収して菌数を定量培養することにより定着を評価する。3. Pilus遺伝子発現抑制薬の検索:定量RT-PCRを用いて、rrgC発現を抑制する薬剤を探索する。これらの検討によって、1)非ワクチン血清型の中でも血清型35Bの検出が定期接種開始後に増加した原因としてtype 1 pilusにより定着しやすいことが関与するのか 2)Pilus発現抑制による定着予防、治療が期待できるかという問いの解明を目指す。
研究計画に沿って実験を開始したものの初年度に遅れが生じたため、予定していた実験に必要な費用のうち一部を使用できなかった。令和4年度には助成金を使用し推進方策に従って研究を進める。
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J Infect Chemother
巻: 28(3) ページ: 420-425
10.1016/j.jiac.2021.12.002
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