深在性真菌症の中でも侵襲性肺アスペルギルス症とムーコル症を含む糸状菌感染症は、最も有効とされている治療薬を用いても致命率が50%を超える。さらに、薬剤耐性による難治化が臨床上大きな問題となっているだけでなく、環境中にも耐性株が拡散して世界規模の課題になっているが、薬剤耐性機構の詳細は未だ明らかになっていない。本研究は、1)ゲノム編集技術を用いた多剤耐性病原糸状菌のアゾール耐性機構の検証、2)ゲノム編集技術を用いた変異株ライブラリ作製とスクリーニングによるアムホテリシンB耐性に関係する遺伝子探索、により多剤耐性糸状菌の薬剤耐性メカニズムを解明し、早期耐性検出法と新しい治療法の開発に貢献する。 令和5年度では、CRISPR/Cas9ゲノム編集技術を用いて、簡便に完全に遺伝子配列を除去する技術を開発した。Cas9タンパク質を発現する遺伝子と2種類のガイドRNAを同時に発現させるプラスミドを構築し、Aspergillus fumigatusに導入した。同時に、遺伝子の上流および下流25 bpずつの配列を持つ50 bpの一本鎖合成DNAを修復テンプレートとして導入した。遺伝子の開始コドンおよび終止コドン付近の2カ所に二本鎖切断を引き起こし、修復テンプレートが相同組換えを起こすことにより、遺伝子配列を除去することに成功した。この技術は真菌における正確なゲノム編集に応用できると期待される。
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