研究課題/領域番号 |
20K08836
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石井 恵子 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (00291253)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 新規ワクチン / 肺炎球菌 / 酸化鉄ナノ粒子 / 粘膜免疫 / IgA |
研究実績の概要 |
市中肺炎の主な原因菌であり、髄膜炎も起こす肺炎球菌は、莢膜多糖の多様性により、90 種以上の血清型に分類される。現行の肺炎球菌ワクチンはその一部の血清型の莢膜を抗原とするもので、対応する血清型に対する効果が認められる一方で、ワクチンに含まれない血清型の菌が増加する「血清型置換」の解決が課題となっている。 我々は2017-2019 年度の科研費基盤(C)「酸化鉄ナノ粒子を用いた粘膜免疫を標的とする新規肺炎球菌ワクチンの開発」において、すべての肺炎球菌に存在するpneumococcal surface protein A(PspA)を抗原とし、それを酸化鉄ナノ粒子(iron oxide magnetic nanoparticle: IONP)に結合させた新規肺炎球菌ワクチンPspA-IONP を作製した。肺炎球菌感染では気道への定着が発症要因となるため、粘膜免疫の誘導を目的として、PspA-IONPをマウスに気道経由で接種した。PspA-IONPはPspA単独に比べて多量のPspA特異的IgGを誘導し、さらにPspA単独では誘導されなかったPspA特異的粘膜IgAを誘導した。このことから、IONPが効率的な感染免疫誘導に有用であることが示唆された。PspA-IONPで免疫したマウスはPspA単独の免疫マウスよりも肺炎球菌感染に対して抵抗性となり、肺や脳での菌の増殖が効果的に抑制された。以上のことから、IONPに結合させることによりPspAの免疫誘導能が格段に増加したことが示唆された。 PspA-IONPワクチンの気道投与によって全身免疫だけでなく粘膜免疫も誘導されることが明らかになった。本研究はその機序を明らかにすることを目的とする。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はPspA-IONPによって誘導される抗体についてより詳細な解析を行い、微生物や粒子状物質の気道からの侵入により形成される気管支関連リンパ組織(bronchial-associated lymphoid tissue: BALT)の病理学的解析を行なった。 PspA-IONPの経気道投与によって誘導された全身性の抗体について感染防御能を検討した。PspA-IONP免疫マウスから採取した血清を新たなマウスに静脈投与したのちに肺炎球菌を気道から感染させたところ、肺内の菌は排除された。 PspA-IONP免疫マウスの血清およびBALF中のPspA特異的IgGのサブクラス(C57BL/6マウスではIgG1、IgG2c, IgG2b, およびIgG3)を解析したところ、II型免疫応答で誘導されるIgG1が主であり、I型免疫応答で誘導されるIgG2cはわずかであった。防御免疫に寄与するI型免疫応答を誘導するPoly(I:C)をPspA-IONP に加えて投与したところ、IgG1とIgG2cは共に増加し、特にBALF中のIgG2cが著しく増加した。PspA-IONP ワクチンは適切なアジュバントの添加により、感染防御効果をコントロールすることが可能であることが示唆された。 PspA-IONPワクチンを気道から接種したマウスにおけるBALTの形成を病理学的に検討したところ、気管支分岐部近辺にリンパ球の集積が認められた。免疫染色により、集積したリンパ球の多くがB細胞であり、その中および粘膜上皮細胞でIgAの存在を確認した。PspA-IONPの投与により気管支粘膜下にBALTが形成され、BALT内のB細胞がIgAを産生すること、およびIgAが上皮細胞を通過して分泌されていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度はPspA-IONPワクチンによって誘導されるBALTや感染防御免疫のエフェクターについてより詳細に検討するため、以下の解析を行う。 1. IgG1は抗原と複合体を形成した後に免疫細胞の不活化受容体に結合する。免疫細胞の活性化にはつながらないが、オプソニンとして貪食・殺菌に貢献する可能性がある。PspA-IONPの接種によって大量に産生されたIgG1のオプソニン活性を調べ、感染防御能との関連を探る。 2. PspA-IONPワクチンによって誘導されるBALTの構造について、各種免疫細胞(B細胞、T細胞、樹状細胞、形質細胞など)の表面マーカーを用いて病理学的に明らかにする。さらに、BALTが形成された肺内の白血球の種類や数について、フローサイトメトリーを用いて解析を行う。 3. PspA-IONPワクチンによるヘルパーT細胞の分化誘導を明らかにするため、免疫誘導後のリンパ節および脾臓細胞をPspAで刺激し、Th1型、Th2型、およびTh17型のサイトカインを測定する。 4. BALTを形成するリンパ球がリンパ節で分化したものに由来するか、リンパ節とは独立であるかを明らかにするため、リンパ球をリンパ節に閉じ込める作用のあるフィンゴリモド(FTY720)を投与しつつ免疫を行ったマウスについて、抗体産生、BALTの形成や構成細胞などを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要物品等の購入に使用した後に少額が残ったもので、次年度使用額に加えて適切に使用する。
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