莢膜を抗原とする現行の肺炎球菌ワクチンでは、ワクチンに含まれる莢膜血清型に対する感染予防効果が認められる一方で、ワクチンに含まれない血清型が流行する「血清型置換」が問題となっている。我々は2017-2019 年度の科研費基盤(C)「酸化鉄ナノ粒子を用いた粘膜免疫を標的とする新規肺炎球菌ワクチンの開発」において、血清型にかかわらず全ての肺炎球菌に存在 pneumococcal surface protein A(PspA)をタンパク質抗原とし、それを貪食細胞に取り込まれやすい酸化鉄ナノ粒子(iron oxide magnetic nanoparticle: IONP)と結合させることにより、新規肺炎球菌ワクチンPspA-IONP を作製した。PspA-IONPを気道経由でマウスに投与すると、PspA単独では誘導されなかった分泌型IgAが誘導され、IONPがアジュバントとして機能することにより粘膜免疫が誘導されることが示唆された。PspA単独あるいはPspA-IONPを気道投与したマウスに肺炎球菌を気道感染させたところ、PspA-IONPは肺や脳での菌の増殖をPspA単独よりも強く抑制したことから、ワクチンとしての有用性が示唆された。また、PspA-IONP気道投与マウスの気管支分岐部に誘導気管支関連リンパ組織(iBALT)が形成され、その中に粘膜免疫の主役となるIgA産生細胞が存在することを確認した。さらに、iBALTでIgAへのクラススイッチが起る際にインバリアントナチュラルキラーT(iNKT)細胞が関与することを、ノックアウトマウスを用いて明らかにした。気道投与により効果的な粘膜免疫を誘導する酸化鉄ナノ粒子ワクチンは他の呼吸器感染症ワクチンのプラットフォームとしても期待される。
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