研究実績の概要 |
ESBL産生菌の代表的な菌種である肺炎桿菌の病態を解析するために分子疫学的解析を実施した。本研究では血液培養から分離された肺炎桿菌を対象にした。高病原性肺炎桿菌(hypervirulent Klebsiella pneumoniae, hvKp)のマーカーであるrmpAの検出や莢膜血清型の決定、MLSTによる菌のタイピングを行った。対象となった268株のうちrmpA陽性株は36株(13.4%)であった。rmpA陽性株では陰性株と比較して、他の病原因子の保有率や、血清型K1、K2である割合が有意に高い結果となった。MLSTではrmpA陽性36株のうちST23/K1が最も多く、次いでST86/K2であった。一方、ST412、ST268を多く認めた。rmpAやほかの遺伝子は予後を予測する因子にはならなかった。発症や重症化に寄与する遺伝子マーカーの特定には、従来の遺伝子解析では限界があり、より詳細な解析が必要と考えられた。(Kikuchi S, Yanagihara K, et al, Sci. Rep. 2023 )マウスの腸内環境を抗菌薬で前処理することで細菌叢が攪乱した“dysbiosis”(腸内細菌叢を構成する細菌種や細菌数が減少することにより、細菌叢の多様性が低下した状態)を誘導し、臨床分離ESBL産生菌を定着させる。マイクロバイオームの構成変化がESBL-E.coliのクリアランスにも影響を与える。腸内細菌叢の一部の構成細菌群がESBL-E.coliの定着抵抗性に関与していることが示唆された。これらの結果はマイクロバイオームを活用した耐性菌の定着抑止が有用であることを示した。これからは、マイクロバイオームを活用した予防戦略が必要になるものと考えられた。
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