本研究はサイトメガロウイルス(CMV)が持つウイルス遺伝子機能解析を通して、ウイルスが感染細胞をハイジャックし、自分自身に都合の良いシステムとして再構築する過程を明らかにする試みである。これまでの研究からヒトCMV UL42は①α、βヘルペスウイルス亜科に保存された遺伝子であること、②宿主ユビキチンE3リガーゼであるNedd4ファミリーの活性を制御すること、③ウイルスや宿主細胞の様々な細胞膜タンパク質の発現を調節する機能があることが分かっている。本研究においてUL42の有無がCMVの主要な糖タンパク質の一つであるgBに与える影響を明らかにした。gBはNedd4ファミリーとの結合可能ドメインを持ち、Nedd4ファミリーの存在により不安定化するが、UL42はこれを保護する機能を持ことが分かった。今年度は、マウスCMVが持つUL42の相同遺伝子であるm42の欠損ウイルスを構築し、CD45の発現量に与える影響を調べた。CD45は白血球系細胞の主要な細胞表面マーカーであり、膜貫通型の脱リン酸化酵素である。TCRシグナル経路の制御に必須な分子であり、その欠損は重度の免疫不全を引き起こす。マウスCMVが感染した細胞ではCD45の発現量が減少し、m42の機能を欠損させることにより解除された。CD45は分解される機序の詳細は現在検討中であるが、lysosomeやautophagosomeにより分解を受ける可能性が高い。m42によるCD45の機能不全はCMVの感染細胞内での増殖や宿主体内での増殖に関わる可能性があり、引き続き詳細な検討を行う予定である。
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