研究課題/領域番号 |
20K08845
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
村木 靖 岩手医科大学, 医学部, 教授 (00241688)
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研究分担者 |
吉野 直人 岩手医科大学, 医学部, 特任准教授 (20372881)
小田切 崇 岩手医科大学, 医学部, 助教 (80770221)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | インフルエンザ / 弱毒生ワクチン / 組換えウイルス / Master Donor Virus(MDV) / C型インフルエンザウイルス |
研究実績の概要 |
現行のインフルエンザHAワクチン(皮下注射)は発症の阻止には限界がある。ウイルスの侵入門戸(上気道)に粘膜免疫を誘導できないためである。これを克服するため、2003年に鼻腔噴霧型の弱毒生ワクチンが実用化された(日本では2016年に承認申請が提出された)。しかしながら、以下の問題点が指摘されている:1)弱毒生ワクチンの基盤であるウイルスMaster Donor Virus(MDV)の病原性の低下が不十分である、2)ウイルス同士の干渉作用のためワクチン効果が減少する可能性がある。 本研究の目的は、C型インフルエンザウイルス(C型ウイルス)がインフルエンザの弱毒生ワクチンのMDVとなりうるか否かを検証することである。研究代表者のこれまでの解析により、1)C型ウイルスは、ゲノムの取り込み効率をあえて低くすることで病原性を低下させヒトの間で流行し続けている、2)複数の系統のウイルスが一個体に感染する例を多数証明しC型ウイルス同士の干渉作用は低い、ことを明らかにした。これらは、C型ウイルスが現行の弱毒生ワクチンの弱点を克服するMDVになる可能性が高いことを示唆している。 本研究の目的は、C型ウイルスが次世代の弱毒生ワクチンのためのMDVとなりうる証拠をつかむことである。そこで「A型インフルエンザウイルスのHAタンパクとNAタンパクを粒子の表面にもつ組換えC型ウイルス(C/Aウイルス)」を作製する。次にそれをマウスの鼻腔に投与し、効果的な粘膜免疫を誘導できるか否かを解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「組換えC/Aウイルス」を作製するために、まず本研究で対象とするA型インフルエンザウイルスのHA遺伝子とNA遺伝子の塩基配列を決定した。MDCK細胞で増殖させたA型ウイルス(元株およびマウス馴化株)を精製した。ウイルスRNAを抽出し、次世代シーケンサーで全ゲノムの塩基配列を決定し、比較した。その結果、HA遺伝子で1塩基(同義置換)の変異がみられたが、NA遺伝子では変異はなかった。その他の6分節には、複数の変異が認められた。これらは既報の変異や新規の変異を含んでいた。 次に免疫の指標となるマウスの抗HA抗体を検出するためのELISA系を確立した。その結果、測定に最適な以下の条件を決定できた:固相化に用いる抗原(HA split)量、ブロッキング条件、二次抗体(anti-mouse IgG Ab)濃度、各ステップの反応時間と温度。実際、HA splitで皮下免疫したマウスの血漿中の抗HA抗体がこのELISAで検出できた。
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今後の研究の推進方策 |
前年度はバイオロジカルセーフティキャビネットが故障したため、遺伝子実験の代わりにELISA系の確立を実施し、成果を得た(上記の進捗状況を参照)。 今年度は、決定したHAとNA遺伝子の塩基配列を基に、組換えC型ウイルス(C/Aウイルス)を作製するためのプラスミドDNAをクローニングする。次にmini-repliconを用いて、このプラスミドからHAとNAタンパクを293T細胞内に発現させ、ウエスタンブロットによりHAとNAの量比を確認する。 確認後、リバース・ジェネティクスで組換えC型ウイルス(C/Aウイルス)の作製を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用するバイオロジカルセーフティキャビネットが故障したため、研究の遂行に遅延が生じた。そのため若干の次年度使用額が生じた。2021年度に物品費として使用する予定である。
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