研究課題
我々はこれまでに、インフルエンザウイルス感染に伴う肺への細菌二次感染の易感染性についてメカニズムの解明を行なってきた。その結果、原因の一つとしてインフルエンザウイルス感染による肺中のG-CSF低下による好中球機能の低下が確認され、また外部よりG-CSFを補完することでこの低下した好中球機能が部分的に回復することを明らかにした。当初は、臨床的観点からインフルエンザウイルス感染に伴う細菌二次感染予防について、マウスモデルを用いて抗インフルエンザウイルス薬による早期のウイルス排除促進が細菌二次感染を予防できるか検討を行う予定であった。しかしながら2020年、2021年とコロナウイルス感染拡大の影響を受け、当大学動物施設でのマウス購入に制限がかかり動物実験の遂行が困難となってしまった。そこで本研究では、動物実験から肺胞基底上皮細胞株A549細胞を用いたin vitro系にてインフルエンザウイルス感染とそれに伴う細菌二次感染易感染性のメカニズム解明および予防法について検討を行った。その結果、A549細胞にインフルエンザウイルスを感染させ、6時間後に感染細胞のadhesion moleculeの発現をmRNAレベルで解析したところCEACAM-1発現が非感染細胞と比較し約10倍まで上昇していた(ICAM-1,VCAM-1などは変化なし)。またCEACAM-1を利用して細胞に接着することが報告されている黄色ブドウ球菌の細胞接着assayでも、実際に非感染細胞を比較して感染細胞では接着するバクテリアの数が有意に増加していた。予防法として抗インフルエンザウイルス薬baloxavir acid(BXA)や乳酸菌産生多糖体を検討したところ、感染ウイルス数、ウイルス感染によって増強したCEACAM-1の発現は有意に減少させ、また接着バクテリア数も減少傾向を示した。
3: やや遅れている
当初の予定では、予備検討で得た「抗インフルエンザウイルス薬投与によるインフルエンザウイルスの早期排除促進細菌二次感染予防に有効である」という結果の再現性の確認するとともにそのメカニズムについて詳細な解析を行う予定であったが、コロナウイルス感染拡大のため当大学での動物購入に制限がかかり進行が困難になってしまった。その一方でA549細胞を用いたin vitro系でのインフルエンザウイルス感染に伴う細菌二次感染易感染性のメカニズムの一端とその予防法については新規知見を得ることができ、2022年度論文化することで世界に情報を発信した。
A549細胞を用いたin vitro系では細菌二次感染易感染性の他の原因を示唆するデータが得られているためin vitro系を主に遂行していく。その一方で、「抗インフルエンザウイルス薬投与によるインフルエンザウイルスの早期排除促進は細菌二次感染予防に有効である」の再現性も確認する予定である。
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