研究課題/領域番号 |
20K08849
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研究機関 | 聖マリアンナ医科大学 |
研究代表者 |
竹村 弘 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (80301597)
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研究分担者 |
大神田 敬 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 講師 (40793469)
國島 広之 聖マリアンナ医科大学, 医学部, 教授 (60339843)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | バイオフィルム / 大腸菌 / 接合伝達 / β-ラクタマーゼ / β-ラクタム薬 |
研究実績の概要 |
わが国で検出されるCREの多くはカルバペネマーゼ産生菌(CPE)ではない所謂non CPE-CREである。またCPEとしてはIMP-1産生Enterobacter cloacaeが多く、その傾向は東日本で顕著である。研究代表者は本研究において、様々な角度からCPE、non CPE-CREの耐性及び薬剤耐性伝達のメカニズム、その疫学的特徴を明らかにしたいと考えている。また現代医療において体内留置デバイスは不可欠なものだが、その周囲に細菌が付着すると、増殖する過程でバイオフィルム(BF)という構造を形成し、これが感染症の難治化の原因となる。このBF中では、生残のために菌同士が協調的に働くことが知られており、抗菌薬に対する抵抗性、BL産生性、耐性遺伝子の伝達効率などに影響を及ぼすことが容易に想像され、IMP-1産生E. cloacaeなどプラスミド伝達性耐性遺伝子保有株をドナー、BFを形成した状態の大腸菌をレシピエントとして接合伝達効率を検討する実験系を構築した。この実験系のレシピエント細胞である大腸菌SMUM-6380(ML4909)はBF過剰産生株で、そのBF産生性はMIC付近の濃度のβ-ラクタム薬、特にCeftazidime(CAZ)で増強されることが判明し、さらにMIC測定の対照菌として教室で保存している大腸菌(ATCC25922)のBF過剰産生変異株であるSMUM-6829株でも同様の現象が起きた。この現象のメカニズムを明らかにするために、①ATCC25922とSMUM-6829株の全ゲノム配列を比較検討、②SMUM-6380、SMUM-6829のCAZ 1 mg/L存在下での鞭毛染色、蛍光顕微鏡、電子顕微鏡観察などを行い、一定の成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究で、RFP耐性のコンピテント細胞である大腸菌ML4909株(SMUM-6380)はBF過剰産生株で、そのBF産生性はMIC付近の濃度のβ-ラクタム薬を添加することで、さらに増強されることを見いだした。このML4909株(SMUM-6380)をレシピエントして、IMP-1産生E. cloacae、ESBL産生大腸菌をドナーとして接合伝達実験にも成功しており、現在抗菌薬存在下でのBF形成状態の菌における接合伝達率について検討している。またMIC測定の対照菌である大腸菌ATCC25922において親株と比べて、BF産生性が明らかに高い変異株SMUM-6829を分離したが、この変異株はML4909(SMUM-6380)同様にMIC付近の濃度のβ-ラクタム薬、例えばCAZ 1mg/L、でBF産生性が著しく増強されることが判った。本研究は、様々なCREのBL産生による耐性、薬剤耐性伝達機序の解明、より有効な抗菌薬療法の確立を主な目的としているが、大腸菌標準菌株の突然変異株でBF過剰産生が観察されたこともあり、BF産生性に関する新知見を得られる機会と考え、この現象のメカニズム解明を優先させた。BF産生菌のグラム染色像と同様に、電子顕微鏡観察でも細胞外マトリクスの増加と菌体の著しい伸長化が確認された。SMUM-6829の全ゲノム解析では転写調節因子LrhAの上流にISが入っていることが判り、さらにLrhAのmRNA発現量も変異株で低下していることが判った。また変異株と親株の鞭毛染色、運動性を比較してみたところ、変異株では1菌体あたりの鞭毛、運動性共に高くなっており、このことがBFの過剰産生の原因の一つであることを明らかにできた。研究がBF過剰産生及び抗菌薬により増強される現象の解明にシフトしたため、本来の研究に遅れを生じた。
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今後の研究の推進方策 |
CREを含むE. cloacae、大腸菌のBL産生性、大腸菌のBF形成量、BF形成大腸菌における接合伝達率など様々な評価系を確立しているので、これらを用いた実験で成果を得ることをめざす。BF過剰産生菌であるML4909(SMUM-6380)をレシピエントして、①IMP-1産生E. cloacae、②ESBL産生大腸菌をドナーとした接合伝達実験を中心に今後実験を進める予定である。現在、IMP-1産生E. cloacae株であるSMUM-6361をドナーとして実験を進めており、①BFを形成した状態、②CAZ 1mg/Lの刺激でBF産生性が増強された状態のレシピエントと、浮遊状態の通常の条件でのレシピエントとの接合伝達率の違いを検討しており、予想に反してBF産生菌では接合伝達率がむしろ低下し、特にCAZ 1mg/Lの刺激でBF産生性が増強された状態では明らかに接合伝達率が下がる傾向にあることが判った。今後この実験系を用いて、他の抗菌薬や基質拡張型β-ラクタマーゼ産生菌(ESBLs)など他のβ-ラクタマーゼの接合伝達性に及ぼす影響、などを順次評価していき、顕著な成果が出そうなものを優先的に実験的に解明していくつもりである。これらの研究成果をまとめて、国内外の学会、学術雑等で報告すること当面の目標とする。さらに本研究の大きなテーマである多剤耐性グラム陰性桿菌がBFを形成することで、菌の耐性化、感染難治化に、どのような影響を及ぼすのかについての分子生物学的検討にも取り組んでいく。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年までの研究で、E. cloacaeのIMP-1、AmpCなどのBLの挙動、BF形成能、BF形成菌における接合伝達率、抗菌薬の抗BF効果などを検討できる実験系を作成することができた。当初、抗菌薬、高価な基質、実験用菌株の新規購入、外注検査を含めて研究費用がかさむと考えられていたが、考えていたよりも順調にこれらの実験系を確立でき、また既存の方法も含めて全体的に比較的安価で実験が行えたため、今年度の研究費が予定よりも少なくて済んでいる。今後研究の仕上げとして、様々な手法で抗菌薬がBF形性に及ぼす影響、BF形成状態での耐性遺伝子の接合伝達、BFの蛍光顕微鏡屋電子顕微鏡による観察などの実験を繰り返し行うことを予定しており、抗菌薬、実験試薬、消耗資材の購入に出費が予想される。また得られた研究成果を、国際的な学会及び誌上で発表したいと考えており、その準備や遂行に費用が必要と考えている。
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