化合物および遺伝子ノックアウトライブラリーを用いたA型肝炎ウイルス宿主因子の探索

2022 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 20K08852
• 研究機関: 国立感染症研究所
• 研究代表者: 鈴木 亮介 国立感染症研究所, ウイルス第二部, 室長 (50342902)
• 研究期間 (年度): 2020-04-01 – 2024-03-31
• キーワード: A型肝炎ウイルス / 低分子化合物 / 宿主因子 / 耐性変異

研究実績の概要

A型肝炎はピコルナウイルス科A型肝炎ウイルス（HAV）感染による急性肝炎である。小児の感染は不顕性感染や軽症が多いものの、成人では症状や肝障害が重い傾向があり、劇症化し死亡する事もある。世界で毎年140万人が感染し、１万人以上が死亡している。アメリカやヨーロッパなどの衛生環境の整った先進国でも数百人から数万人の集団発生が生じ、死亡例も報告されている。2018年には国内においても900人を超えるA型肝炎の流行が発生している事からも、A型肝炎の医学・公衆衛生学的重要性が再認識され、感染や発症を制御する必要性が高まっている。
本研究課題の目的は、HAVが肝細胞において感染、増殖する際に重要な宿主因子を同定する事により、HAVの感染メカニズムの一端を明らかにする事である。
昨年度までに同定したHAVの増殖抑制活性を有する化合物のうち、最も強い活性を示す化合物Aに着目し、この化合物が作用する宿主因子がHAVの生活環にどのように関与するかを解析した。しかし宿主因子のsiRNAを細胞に導入しても、顕著なHAV増殖抑制は認められず、またHAVが増殖する肝臓においてその発現レベルは低いため、化合物Aのターゲットである宿主因子を介さずにウイルスに作用している可能性が考えられた。そこで化合物A存在下でHAVの培養を繰り返し、薬剤耐性のHAVを得た。現在、薬剤耐性HAVの変異を確認し、薬剤耐性の責任部位をレプリコンを用いて決定している。

現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

研究計画に記載した項目のうち、代替案である薬理活性化合物ライブラリーのスクリーニングから複数のヒット化合物が得られたが、着目した化合物がターゲットとする宿主因子を介さない作用機序により、ウイルスの増殖が抑制されている可能性が示唆された。このため動物実験による検証の実施が遅れた。

今後の研究の推進方策

薬剤耐性変異の解析を進め、ヒット化合物の作用機序を明らかにする。またマウス感染モデルを用いた低分子化合物のin vivoにおける抗ウイルス効果を計画通り検証する計画である。

次年度使用額が生じた理由

実施が遅れた動物実験による化合物の効果の検証を行うため。

研究成果

• [雑誌論文] Seroepidemiology of hepatitis A virus infection in Japan, an area of very low endemicity. Microbiology and Immunology, 2023. (2023)
  • 著者名/発表者名: Kiyohara T, Ishii K, Satake M, Matsubayashi K, Suzuki R, Sugiyama R, Sunagawa T and Masamichi Muramatsu.
  • 雑誌名: Microbiology and Immunology 巻: 67 ページ: 14-21
  • DOI: 10.1111/1348-0421.13035. Epub 2022 Nov 27.
  • 査読あり
• [雑誌論文] ウイルス性肝炎を見直す A型肝炎・E型肝炎 (2023)
  • 著者名/発表者名: 鈴木亮介
  • 雑誌名: 小児科 巻: 2023 ページ: 7-13
• [雑誌論文] Macrophage depletion reactivates fecal virus shedding following resolution of acute hepatitis A in Ifnar1-/- mice. (2022)
  • 著者名/発表者名: Shiota T, Matsuda M, Zheng X, Nagata N, Ishii K, Suzuki R, Muramatsu M, Takimoto K, Hanaki K, Lemon SM, McGivern D, Hirai-Yuki A
  • 雑誌名: Journal of Virology 巻: 96 ページ: e0149622
  • DOI: 10.1128/jvi.01496-22. Epub 2022 Nov 10.
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] Novel flavonoid hybrids as potent antiviral agents against hepatitis A: Design, synthesis and biological evaluation. (2022)
  • 著者名/発表者名: Shi S, Zheng X, Suzuki R, Li Z, Shiota T, Wang J, Hirai-Yuki A, Liu Q, Muramatsu M, Song SJ
  • 雑誌名: Eur J Med Chem. 巻: 238 ページ: 114452
  • DOI: 10.1016/j.ejmech.2022.114452. Epub 2022 May 14.
  • 査読あり / 国際共著
• [雑誌論文] 妻の感染を契機に同居家族全員がA 型肝炎ウイルスに感染した症例 (2022)
  • 著者名/発表者名: 斉藤淳哉、山島美緒、林田稔也、池田智成、石田智士、浦川立貴、岡村卓真、栗林泰隆、山道忍、矢嶌弘之、宮﨑修、本田徹郎、杉山隆一、清原知子、鈴木亮介、森内浩幸、市川辰樹
  • 雑誌名: 肝臓 巻: 63 ページ: 13-15
  • DOI: 10.2957/kanzo.63.500
  • 査読あり
• [学会発表] Identification of New flavonoid hybrids as potent anti-hepatitis A virus agents. (2022)
  • 著者名/発表者名: Xin Zheng, Shaochun Shi, Ryosuke Suzuki, Ziyue Li, Jiayin Wang, Qingbo Liu, Shao-Jiang Song, Masamichi Muramatsu.
  • 学会等名: 日本薬学会第142年会
• [学会発表] Development of novel flavonoid hybrids against hepatitis A. (2022)
  • 著者名/発表者名: Xin Zheng, Shaochun Shi, Ryosuke Suzuki , Ziyue Li , Jiayin Wang , Asuka Hirai-Yuki , Qingbo Liu , Shao-Jiang Song , Masamichi Muramatsu.
  • 学会等名: 第63回臨床ウイルス学会
• [学会発表] 新規フラボノイド系化合物を用いた抗HAVおよびHCV作用の検討 (2022)
  • 著者名/発表者名: 鄭シン、張寒、史紹春、鈴木亮介、塩田智之、結城明香、劉慶博、宋少江、村松正道
  • 学会等名: 第69回日本ウイルス学会学術集会