研究実績の概要 |
研究協力医療機関より送付されたBacillus cereus group 36株について全ゲノム解読を行った。解読した36株は、血流感染のアウトブレイク株14株(2施設由来)、非アウトブレイク株22株(3施設由来)で20株が無菌検体(血液・羊水)由来、残り13株が非無菌検体由来、3株は由来検体不明であった。 得られた解読配列から、B. cereusのMLSTシェーマに用いられる7つのalleleをすべて連結したconcatenate配列を作成し、Clustal Omegaを用いてmultiple alignment したのちRAxMLにて系統解析を行った。系統解析は上記36株の他、Priest らが報告している菌株のSTおよび日本国内の院内感染由来株84株のSTの配列をPubMLSTのWeb siteより取得し、計120株で実施した。系統解析の結果はPriest らの提案するclade 1、clade 2(B. thuringiensis)およびそれらに分類されないOthersに区分した。36株中22株(61%)がclade1、11株(31%)がclade 2、3株(8%)がOthersに分類された。無菌検体由来株は非無菌検体由来株に比べ、clade 1の株が有意に多かった(P=0.037)。ただし、血流感染のアウトブレイク由来14株がすべてclade 1であり、これらを除く22株のみでは、無菌検体と非無菌検体でcladeの分布に有意差は認めなかった(P=1.000)。 Priest らはclade 1をさらに4群(Cereus I, Cereus II, Cereus III, B. anthracis)に分類しているが、本解析で国内の分離株のみからなる群を認めたため、これをCereus IVおよびCereus Vとした。血流感染のアウトブレイク株14株はCereus II(n=5), Cereus III(n=5), Cereus V(n=4)であった。非アウトブレイク株のうちclade 1となった8株はCereus II(n=3), Cereus IV(n=2), Cereus V(n=3)となり、Cereus IIIに含まれる株はなかった。アウトブレイク由来や無菌検体由来はCereus III又はIVに多い傾向を認めたが、解析株数が少なく、統計学的有意差は認めなかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は新型コロナウイルス感染症の流行により、医療機関、地方衛生研究所、衛生検査所からのB. cereus株収集については、予定通りの進捗が困難であった。収集できた菌株数が限られたため、ST1420 で特異的な配列(allele 210)をもつtpiの塩基配列をサンガーシークエンザーにより決定することによるスクリーニングは行わず、全36株の全ゲノム解読を実施することとした。結果としてST1420は36株中1株のみであった。一方全ゲノム解読を実施したことにより、日本国内分離株独自の系統(CereusIV, CereusV)を確認することができた。また、得られた全ゲノムデータをもとにしたcore genome SNPS, GenAPIによる遺伝子の有無による系統解析などを検討している。 なお、年度末に一部の衛生検査所より食品由来のB. cereus株の提供を受けることができたため、現在解析を進めている。今後も新型コロナウイルス感染症の流行状況を鑑みて、菌株提供依頼について打診予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
MALDI Biotyper(Bruker社)を用いた ST1420に特徴的な波形の有無を検討する予定であったが、収集された菌株におけるST1420の割合が想定よりも低かった。そのため、過去の事例由来の株も検討に加えられるよう調整を行う予定である。また、アウトブレイクや血流感染は, ST1420が含まれるCereus III, Cereus IVとの関連が示唆されるため、ST1420限定せず、これらの系統の株を対象として検討を進めることとした。 個別の医療機関からの菌株収集および臨床情報の収集については、新型コロナウイルス感染症の流行状況に影響を受けるため研究期間中での実施が困難となる可能性がある。そのため、2021年度は衛生検査所などからの菌株収集とそれらの菌株の解析を中心に進める予定である。
|