昨年度までの研究で、国内の医療機関での血流感染症より分離されるB. cereusはハイリスククローンと想定されたST1420 以外の多様なST型が含まれており、B. anthracisに近縁とされるclade1のCereusIIIに属する株が多い傾向があるものの、特定の系統株と血流感染との明確な相関は見いだせなかった。収集された菌株のうち一部では症例の臨床背景が推定可能であったため、検討を行ったところ、B. cereusが血液検体より分離された症例の中に、検体採取時の汚染(contamination)の可能性が高い症例と、明らかな血流感染症を発症し、全身の臓器へ感染が波及し致命的となった症例とが混在することが明らかとなった。明らかに重症の血流感染症を発症したものを劇症型B. cereus血流感染症として、同様の症例を文献的に検索するとともに、学会の症例報告などから探索した。結果、劇症型B. cereus感染症の特徴として、意識障害を伴い、時間単位で増悪する激烈な臨床経過を示し、血液疾患を基礎疾患に持つことの多いことが明らかとなった。剖検結果の報告がなされた症例においては、B. cereusの集簇を伴う消化管潰瘍を認め、従来の血管カテーテル以外が侵入門戸であることをが示唆された。また中枢を含む多臓器に、出血、梗塞、壊死などの組織障害を認め、組織侵襲性の高い病原性を持っている可能性もしされていた。 症例報告のなされた症例のうち、医療機関において分離されたB. cereusが保管されていた症例について、分離株の分与を受け全ゲノム解析を実施した所、同一医療機関においても共通のalleleを持たない、異なるST型であった。また、収集できた5株中2株は新規STであった。
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