研究課題
まずサルコペニアモデルであるmAktDKOマウスを24時間絶食に置いたところ、骨格筋から供給されるアラニンの血中濃度と血糖が有意に低下しており、アラニンを基質とした肝臓での糖新生が低下しているものと考えられた。このマウスに40%カロリー制限を行なったところ、体重は対照マウスよりも減少幅が大きく、過半数の個体が数週間のうちに死亡することが観察された。このことからサルコペニアにおいては低栄養に対する耐性が低下していることが示唆され、日常臨床においてもサルコペニア患者に対する過度のエネルギー制限は有用でなく、個々の症例に合わせた食事療法の個別化の重要であるものと考えられた。またこのマウスの腫瘍耐性を検討する目的でメラノーマ細胞の接種実験を行なった。その結果、mAktDKOマウスにおいては腫瘍の長径が増大し、重量も増加傾向であった。この実験系は、腫瘍の発生でなく増殖を評価する系であるが、今回の結果より骨格筋は、全身の他組織における腫瘍の増殖を制御している可能性が考えられた。認知機能についても評価を行なったが条件の調整に難渋し、今後の検討課題と考えられた。また速筋のトランスクリプトーム解析を行ない、ミトコンドリア関連の発現低下など、RT-PCRの結果と一致することが確認されたが、このような発現変化が代謝産物に与える影響について、今後の検討課題と考えられた。加えてこのKOマウスにおいては、Aktの下流の転写因子FoxOが活性化していたことを踏まえ、FoxO阻害薬の投与実験を行なった。その結果、速筋重量の増加を認めたが、対照マウスにおいては、同薬の投与を行なっても筋重量の変化は見られなかった。このことからFoxO阻害薬の投与が、特に骨格筋におけるインスリン抵抗性を背景としたサルコペニアに対して、治療効果のみならず、予防効果を示す可能性が示唆された。
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