研究実績の概要 |
初年度半年間(4月から9月)の本研究課題の結果として以下のような成果を得た。中枢神経系へのデリバリーが可能なムコ多糖症新規治療薬を見出すため、既存薬ライブラリーを用いたスクリーニングを行った。ヒト神経芽細胞腫由来のSK-N-SH細胞から樹立したA85T変異型IDS安定発現細胞株を用いて、リソソーム酵素iduronate-2-sulfatase(IDS)がリソソームマーカーLamp2と共局在する割合(以下「共局在率」)を多検体イメージングシステムにより解析・定量した。A85T変異型IDSの共局在率を0%、野生型IDSの共局在率を100%として、270種の既存薬添加後のA85T変異型IDS発現細胞株における共局在率変化を算出した。その結果、25%以上の共局在率を示す薬剤を5種( 共局在率の高い順に薬剤A, B, C, D, Eとする)見出した。このうち最も効果の大きい薬剤Aは、血液脳関門透過性は低いものの共局在率が94%を示し、野生型IDSの共局在率に匹敵する効果が認められたことから、血液脳関門透過性の低さを補って中枢神経系へ効果を示す可能性が考えられる。また、残りの薬剤B~Eは全て血液脳関門透過性を示す薬剤であった。その中で薬剤B(共局在率:39%)と薬剤E(共局在率:25%)は神経細胞をターゲットとした既存薬であることから中枢神経系への充分なデリバリー効率が期待でき、精神発達遅滞の改善効果を示すことが期待できる。薬剤C(共局在率:37%)と薬剤D(共局在率:30%)は神経疾患の治療薬として開発された薬剤ではないが、高い血液脳関門透過性を示す薬剤でありドラッグリポジショニングが可能な候補薬剤として興味深い。本研究課題で見出された5種の薬剤はモデル動物を用いたin vivoスクリーニングを実施する候補化合物として有望であり、将来的にムコ多糖症の新規治療薬となる可能性がある。
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