研究実績の概要 |
一般的な2型糖尿病は発症への関与が弱い遺伝因子が複数関係する多遺伝因子疾患であるが、発症様式から単一遺伝子の異常が原因と考えられる症例にも時折遭遇する。今回、単一遺伝子異常が疑われる若年発症糖尿病症例(糖尿病診断年齢25歳未満)17例を対象に全エクソームシーケンス法にて遺伝因子の解析を行なった。その結果、既知のMODY遺伝子内には単独で発症と関連する変異は認められなかったが、PAX4遺伝子(MODY9)の低頻度の遺伝子多型であるp.Arg200His変異(rs2233580)が、日本人の一般集団に比し高頻度(アリル頻度:0.082 VS 0.324, 3.67e-7)に認められた。同変異は一般的な2型糖尿病の発症に関係することが報告されている遺伝子多型であるが、BioBank Japanで公開されている2型糖尿病群のアリル頻度と比べても高頻度であった[OR:3.52(1.71-7.23),p=2.55e-4]。さらに、3名(18%)は同変異がホモ接合体であり劣性遺伝モデルで解析した場合のオッズ比は13.72(3.9-48.23),p=7.04e-8にもおよんだ。一方、GCK遺伝子異常によるMODY2患者6名、HNF1A遺伝子異常によるMODY3患者5名を対象とした検討では同多型は認められなかった。さらに、膵α細胞株を用いた実験においてグルカゴンプロモーター活性はPAX4の強発現により抑制されたが200番目をHisに置換したPAX4ではその効果が消失していた。若年発症糖尿病の原因としては、MODY2やMODY3など単一遺伝子異常により若年から糖尿病が発症する場合に加え複数の原因遺伝子が関与する場合も想定すべきであること、後者の場合においてはPAX4遺伝子の多型が重要な役割の一つを担っていることが示唆された。
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