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2021 年度 実施状況報告書

ゲノムコホートから見出した脂肪肝関連分子を標的にした新規治療戦略の開発

研究課題

研究課題/領域番号 20K08869
研究機関自治医科大学

研究代表者

岩本 禎彦  自治医科大学, 医学部, 教授 (10232711)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード脂肪肝 / ゲノムワイド関連解析 / 腸内細菌叢 / 新規関連遺伝子座
研究実績の概要

糖尿病などの代謝異常を伴わないlean-NAFLD 275人をcaseとし、1411名のcontrolとの間でゲノムワイド関連解析GWASを実施した結果、主要な脂肪肝関連遺伝子とされてきたPNPLA3と TM6SF2に有意な関連を認めず、Chr6, 7, 12, 13に関連を示唆する新たな遺伝子座を見いだした。このうちもっとも深い関連を示したChr6のSNPは、HLAclassIと classIIの間に位置する座位であり、HLAタイピングの結果、HLA-B*54:01アレルがNAFLDリスクアレルであると示唆される結果が得られた。さらに、このアレル保有者は、mucinaseを産生し糖質吸収改善に働く可能性が示されているAkkermansia属を有意に抑制することが明らかにし論文として公表した。Chr13のlead SNP近傍にはGPC6, DCT, TGDS, GPR180が存在した。Chr13の関連領域を、4遺伝子のshRNAテンプレートを載せたAAV8をマウスにインジェクションすることによって肝臓でノックダウンし、肝臓脂質レベルの変化を比較した結果、GPR180遺伝子がこの領域における機能遺伝子の可能性が示唆され、ノックアウトマウスを樹立し、機能的検証を行った。その結果、Gpr180ノックアウトは、高脂肪食による肝臓の脂肪蓄積を有意に抑制することだけではなく、血中脂質レベルも低下させること、そのメカニズムは、肝臓でのmTORCシグナルの抑制からSREBP活性化と転写抑制、引いては脂質合成の抑制へと繋がることによって生じていることを明らかにし、現在、論文投稿準備を進めている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究計画として挙げた到達目標の進捗状況は以下の通りである。
1) SNPの機能解析
a) lean-NAFLDのChr6関連連鎖不平衡ブロック内のlead SNPから関連HLAアレルを見出した。
また、Chr13の関連領域周辺にコードされる4遺伝(Gpc6, Dct, Tgds, Gpr180)を、shRNAを載せたAAV8によってスクリーニングし、機能性遺伝子候補をGpr180に絞り込んだ。さらに、Chr13の関連領域と周辺遺伝子との3次元的機能的協調をchromosome conformation capture assayにて明らかにし、このゲノム領域が、AAV8スクリーニングによって明らかになった機能性遺伝子候補を含む周辺遺伝子の発現制御を行っている可能性が明らかになった。また、Gpr180KOマウスを樹立し、このマウスは体重の優位な変化なしに、高脂肪食による脂肪肝に抵抗性を示すこと、糖代謝には影響することなく、血中脂質レベルを低下させること、などが明らかになった。そのメカニズムの解析によって、Gpr180の欠失はmTORC1のシグナルを軽減させ、このシグナルで制御されるSREBP1, 2の不活性化による脂肪酸合成やコレステロール合成低下が脂肪肝と血中脂質レベルの低下をもたらしたと考えられた。
2) NAFLD病態関連遺伝子への分子標的治療の可能性を検討
2021年末に発表された論文(Nature Communications (2021)12:7144)に褐色脂肪組織におけるGpr180のナチュラルリガンドとしてCTHRC1の可能性が高いことが明らかにされた。脂肪組織では、CTHRC1-GPR180シグナルは、脂肪燃焼に働くことが明らかにされたが、肝臓での働きは、明らかにされていない。今後、検討が必要である。

今後の研究の推進方策

今後は、遺伝疫学解析結果の検証実験の結果をさらに、実際の治療戦略に組み入れるための予備的な検討を行う。具体的には、以下を予定している。
①新規NAFLD関連遺伝子Gpr180ノックアウトマウスを用いて、候補リガンドによる肝臓脂質や血中脂質レベルへの影響を検討:lean NAFLDのGWAS解析によって明らかになったGpr180遺伝子のノックアウトマウスを用いて、(Nature Communications (2021)12:7144)において明らかにされた褐色脂肪組織におけるGpr180のナチュラルリガンド(CTHRC1)の肝臓における実験的検証を行う。Gpr180遺伝子のノックアウトマウスとコントロールマウスにCTHRC1を強発現させ、血清脂質や肝臓内脂質などの生化学、病理学、エネルギー摂取や代謝などの生理学的解析を行う。
②新規NAFLD関連遺伝子のノックアウト細胞を用いた分子標的治療への可能性の検討:Gpr180遺伝子ノックアウトマウスから樹立した肝臓細胞、MEFや脂肪細胞などを用いて、合成リガンドあるいは阻害剤のライブラリー・スクリーニングを行う。

次年度使用額が生じた理由

新たな脂肪肝関連遺伝子座GPR180の機能メカニズムとして当初、認められたWntシグナルではなくmTORC1シグナルが主たるものである可能性が高まったことと、昨年末、褐色脂肪細胞におけるリガンドとしてタンパク分子が同定されたことから、実験に必要な一部の資材の購入が必要なくなったため。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (1件)

  • [雑誌論文] Association of HLA-DPB1, NLRP10, OVOL1, and ABCC11 with the axillary microbiome in a Japanese population.2022

    • 著者名/発表者名
      Kutsuwada Y, Yokota K, Yoshida K, Tsuda H, Watanabe K, Matsumoto A, Iwamoto S.
    • 雑誌名

      J Dermatol Sci.

      巻: 105 ページ: 98-104

    • DOI

      10.1016/j.jdermsci.2022.01.003.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] ILDR2 stabilization is regulated by its interaction with GRP78.2021

    • 著者名/発表者名
      Watanabe K, Nakayama K, Ohta S, Matsumoto A, Tsuda H, Iwamoto S.
    • 雑誌名

      Sci Rep.

      巻: 11 ページ: 8414

    • DOI

      10.1038/s41598-021-87884-7.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Normal plasma apoB48 despite the virtual absence of apoB100 in a compound heterozygote with novel mutations in the MTTP gene.2021

    • 著者名/発表者名
      Takahashi M, Ozaki N, Nagashima S, Wakabayashi T, Iwamoto S, Ishibashi S.
    • 雑誌名

      J Clin Lipidol.

      巻: 15 ページ: 569-573

    • DOI

      10.1016/j.jacl.2021.04.013.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] N4BP2L1 interacts with dynactin and contributes to GLUT4 trafficking and glucose uptake in adipocytes.2021

    • 著者名/発表者名
      Watanabe K, Matsumoto A, Tsuda H, Iwamoto S.
    • 雑誌名

      J Diabetes Investig.

      巻: 12 ページ: 1958-1966

    • DOI

      10.1111/jdi.13623.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] ジャポニカアレイを用いた非アルコール性脂肪性肝疾患関連遺伝要因の探索2022

    • 著者名/発表者名
      岩本禎彦
    • 学会等名
      日本人類遺伝学会

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公開日: 2022-12-28  

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