研究課題
腎臓は、原尿中の大量の電解質や栄養分を再吸収するために、心臓と並んで最もエネルギー需要が大きい臓器であり、約70%を脂肪酸のbeta酸化に依存する。しかしながら、腎臓の脂肪酸の取り込み機構はほとんど不明である。本研究は、腎尿細管上皮細胞の脂肪酸取り込み機構の解明を目的とした。脂肪酸輸送体CD36は、マウス腎臓の近位尿細管上皮細胞の基底膜に豊富に発現していた。CD36欠損マウスでは野生型に比較し、長鎖脂肪酸トレーサーの取り込みが、静注直後は有意に低下し、30分後には有意差は消失した。二光子顕微鏡を用いた生体イメージングにて、BODIPY-C12(蛍光中鎖脂肪酸)は、投与後早期に近位尿細管上皮細胞の基底膜側(血液側)に集積し、続いて管腔側(原尿側)に集積した。また、脂肪融解を誘導するbeta3アドレナリン受容体作動薬(CL316,243)を腹腔内投与すると、血中脂肪酸濃度の上昇に伴って、腎臓に中性脂肪が蓄積した。細胞特異的抗体を用いた検討から、脂肪蓄積細胞は、主に近位尿細管上皮細胞であり、過剰な脂肪は下部ネフロンにも蓄積した。ジフテリア毒素(DT)誘導性に近位尿細管上皮細胞が特異的に傷害されるようにDT受容体を近位尿細管上皮細胞特異的プロモーター下に発現させたマウスを用いた検討にて、近位尿細管上皮細胞傷害下では、近位ネフロンの中性脂肪蓄積が減少し、遠位ネフロンでの蓄積が増加した。これらの結果から、近位尿細管上皮細胞は脂肪酸を取り込む主要な細胞であり、CD36依存性経路で血液側から取り込む一方、CD36非依存性経路で原尿側からも取り込むことが明らかになった。また、過剰に取り込まれた脂肪酸は、中性脂肪として近位ネフロンから遠位ネフロンまで蓄積されることが示された。
2: おおむね順調に進展している
当初予定していた1)中性脂肪蓄積細胞の同定、2)二光子顕微鏡による脂肪酸トレーサーの取り込み動態の観察、3)近位尿細管上皮細胞障害モデルでの脂肪酸取り込みと中性脂肪蓄積の変化、4)メガリン欠損マウスの脂肪酸取り込みと中性脂肪蓄積の変化、の実験を実施し、合理的説明ができる結果を得た。最近、臓器特異的FATP2欠損マウスが完成し、腎臓近位尿細管に特異的な遺伝子欠損を確認した。近位尿細管特異的FATP2欠損マウスとCD36欠損マウスを交配して、二重欠損マウスも完成した。
近位尿細管特異的FATP2欠損マウスと二重欠損マウス(FATP2欠損+CD36欠損)を用いて、脂肪酸取り込みと中性脂肪蓄積の変化を観察する。また、これらのマウスに、片側の虚血再灌流モデルや、尿管結紮モデルを作成し、脂肪酸取り込み低下と病態の変化(改善するか悪化するか)を観察する。
2021~2022年の新型コロナウィルス感染症蔓延防止等重点処置の発令のため、実験計画を制限して実施していた。このため、次年度使用額が生じた。2022年度は、前年度に実施予定だった実験も含めて実施する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件)
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