前年度までの肥満モデルマウスにおける代謝解析(血液、骨格筋、肝臓、脂肪組織のマルチオミクスデータを用いたトランスオミクス解析を含む)を通じて、諸臓器におけるグルココルチコイド作用とインスリン作用が個体レベルの代謝を大きく変容させながら病態に関わる可能性を見出していた。本年度は、とくに骨格筋グルココルチコイド受容体(GR)に焦点をあてて、骨格筋がどのように全身のエネルギー代謝変化のノードとなるのか、肥満・代謝異常の病態と関わるのかについて、追究を進めた。 慢性コルチコステロン投与による肥満モデルでは脂肪組織重量の増大や高インスリン血症の誘導がみられたが、骨格筋特異的GR欠損(GRmKO)マウスではそれらの変化は軽減された。また、ストレプトゾトシン前処理により同モデルでの高インスリン血症誘導を抑制したところ、脂肪組織重量の増大が消失した。別な肥満モデル(ob/ob)においても、GRmKOマウスでは高インスリン血症の誘導が抑制され、その後の全身的な脂肪蓄積が抑制された。上記いずれの肥満モデルにおいても、GRmKOマウスでは血糖値の上昇が抑制された。以上、肥満における骨格筋グルココルチコイド作用が、高インスリン血症の誘導を引き起こしつつ脂肪蓄積や耐糖能異常を惹起すること、骨格筋GRがその治療標的になりうることを明らかにした。また、骨格筋以外の臓器のグルココルチコイドシグナルも肥満・代謝異常の病態に促進的であることが示唆され、肥満の病態基盤には内分泌環境変化と複雑な臓器連関があることが示された。 さらに、骨格筋GRシグナルが代謝異常の病態に影響する様式は、性やライフステージによって変容する可能性を見出した。本研究から、骨格筋GRが個体のエネルギー代謝異常を理解するための鍵となること、その詳細解明は性やライフステージを考慮した個別合理的な医療の実現にも役立つ可能性があることが示された。
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