研究課題
三大栄養素の組成(コーンスターチ、フルクトース、分岐鎖アミノ酸、大豆油、ラードを主成分とする)を変えた食餌を投与し、耐糖能、組織慢性炎症の程度、16S rRNAシークエンス解析を統合的に解析した。それぞれの食餌ごとに特有の腸内細菌組成が形成され、高大豆油食で最も肥満、糖代謝異常が悪化した。腸内細菌叢の関与を調べるため、無菌マウスにそれぞれの群の腸内細菌移植を行うと、高大豆油食による耐糖能異常は再現され、無菌マウスに高大豆油食を投与しても耐糖能は極めて良好なままであることから、高大豆油食由来の腸内細菌叢は糖代謝を悪化させることが示唆された。栄養素によって確立された腸内細菌叢由来の脂質の変化を明らかにするため、無菌環境で育ったマウスを無菌のまま維持する群と、腸内細菌移植により有菌化する群に分け、無菌、有菌の両群にそれぞれ5種類の栄養組成の飼料を投与したのちに血漿の網羅的リピドミクス解析を行った。その結果、629種の脂質が検出され、食事に含まれる栄養組成ごとに確立した腸内細菌の有無によって、血中の脂質プロファイルが大きく異なることが確認された。中でも最も顕著な糖代謝異常を呈する高大豆油食では、有菌・無菌間で有意に変化する血中脂質の数が最大であり、高大豆油食によって確立した腸内細菌叢は血中の脂質組成に与える影響が最も大きいことが糖代謝異常に関連する可能性が示唆された。栄養素の組成は個体のインスリン抵抗性を決定づける重要な要素であるが、その背景に腸内細菌叢依存的な血中の脂質組成のダイナミックな変化があることを示した(Watanabe Y, Fujisaka S. et al. iScience 2021 in press)。
2: おおむね順調に進展している
無菌マウスの維持繁殖は予定どおりに進行し、当初の予定どおりに実験計画は進行した。食事由来の腸内細菌叢が血中脂質に与える影響と、糖代謝との関連を見出し、iScience誌にアクセプトされたため。
最近、ある特定のポリフェノールによる腸内細菌叢を介した抗肥満、糖代謝改善作用を見出している。これについても我々の研究室で維持している無菌マウスに対して腸内細菌移植を行うノトバイオート実験を駆使し、腸内細菌叢が代謝に与える影響を明らかにしていく予定である。
マウスの繁殖が当初の計画より遅れ、予定していた実験が延期となったために次年度使用額が生じた。現在、繁殖がスムーズになっており、次年度に実験を行う予定。これに伴って、今年度使用予定の助成金は次年度に使用する。
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iScience
巻: - ページ: in press
Diabetol Int.
巻: 12 ページ: 74-79
10.1007/s13340-020-00482-2.