研究課題/領域番号 |
20K08884
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
菅原 健二 神戸大学, 医学部附属病院, 助教 (70645217)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | メトホルミン / キレート作用 / ミトコンドリア機能 |
研究実績の概要 |
メトホルミンの耐糖能改善作用の発現には、ミトコンドリア機能抑制作用を介した細胞内AMP濃度の上昇が重要と考えられているが、メトホルミンがミトコンドリア機能を抑制するメカニズムは明らかではない。本研究では、「鉄に対するキレート能」という新規な化学的特性が、メトホルミンによるミトコンドリア機能抑制作用を介した薬理作用の発現に関与するか否かについて明らかとすることを目的としている。 令和2年度は、メトホルミンによる鉄や他の金属とのキレート能をさらに高いレベルで実証し、創薬開発に繋げる情報を得るため、X線結晶構造解析により鉄や銅、ニッケルなどの金属とメトホルミン複合体の三次元立体構造を試みた。その結果、鉄に関しては、メトホルミンとの混合により吸光度の変化や沈殿形成など、キレート複合体の形成能を示唆する現象は捉えているが、結晶は得られず、複雑な構造変化やコンフォメーション変化を伴うことが推測された。一方で、メトホルミンと銅およびニッケルの複合体の構造解析には成功し、銅一原子に対してメトホルミンは2分子配位する、平方四角形構造を有することを明らかにした。 次に、サイクリックボルタンメトリー法によりメトホルミンー銅複合体の特性を解析したところ、金属複合体は酸化還元反応に関与することが示された。さらに、複合体は弱塩基によって脱プロトン化を受け、酸化されることが明らかとなった。ミトコンドリア機能には、細胞質中やミトコンドリア内部の酸化還元状態が影響を与えることから、メトホルミンは金属と複合体を形成することにより酸化還元能を示す構造となることで、ミトコンドリア機能調節を介した薬効を示す可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は当初の計画通り遂行可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度の成果によりメトホルミンと金属複合体の詳細が明らかとなり、キレート形成による特性変化が薬効発現に重要である可能性が示された。令和3年度も研究計画に従って、研究を遂行する予定である。 ・令和3年度:キレート作用を介したメトホルミンによるミトコンドリア機能に与える影響の解析 培養肝細胞においてメトホルミンによるミトコンドリア呼吸機能への影響をフラックスアナライザーにより解析し、3価鉄の添加によりメトホルミン作用が抑制されるか否か、また、デフェリプロンやデフェロキサミンなどの鉄キレート剤がメトホルミン様の作用を及ぼすか否かを検討することにより、メトホルミンの鉄キレート作用によるミトコンドリア呼吸機能への影響を検証する。鉄キレート能と呼吸機能抑制作用の関連が明らかとなれば、ミトコンドリア呼吸鎖複合体を形成する各種タンパクの発現や機能の変化の検討を通じて、そのメカニズムの詳細を明らかとする。 ・令和4年度:鉄キレート作用による代謝改善作用への影響の検討 培養肝細胞でのメトホルミンによる糖産生抑制作用や脂肪合成抑制作用が3価鉄の添加により抑制される否か、また、鉄キレート剤がメトホルミン作用を模倣するか否かを検討する。さらに、遺伝的肥満モデルマウスであるdb/db マウスや高脂肪食飼育マウスなど、メトホルミンが代謝改善効果を発揮することが知られている肥満インスリン抵抗性糖尿病モデル動物に鉄キレート剤を投与し、肝臓でのミトコンドリア機能や肝細胞内AMP/ATP比率に対する影響を検討するとともに、血糖低下や脂肪肝改善などのメトホルミンによる代謝改善効果への影響を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
ミトコンドリア機能評価に係る消耗品の購入が令和3年度になったために、次年度使用額が生じた。 進捗状況は概ね研究計画通り進行しているため、令和3年度は研究計画および研究経費に沿って、次年度使用額および令和3年度の助成金を使用する予定である。
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