研究実績の概要 |
メトホルミンの耐糖能改善作用の発現にはミトコンドリア機能抑制作用が重要と考えられているが、そのメカニズムは不明な点が多い。本研究は、メトホルミンの「キレート作用」という化学的特性が、メトホルミンによるミトコンドリア機能抑制作用を介した薬理作用の発現に関与するか否かについて明らかにすることを目的としている。 これまで、令和2年度はX線結晶構造解析により金属とメトホルミン複合体の三次元立体構造を決定した。また、令和3年度にはフラックスアナライザーによる解析により、金属キレート剤がメトホルミンと同様にミトコンドリアの呼吸機能抑制作用を発揮するか検討したが、細胞非透過性の鉄キレート剤であるデフェリプロンや銅キレート剤のバソクプロインスルホン酸には呼吸機能抑制作用は認めなかった。 そこで令和4年度は、細胞透過性の銅キレート剤であるAmmonium Tetrathiomolybdate(TM)を用いて、TMがメトホルミンと同様の作用を有するか否か検証した。はじめに、ヒト由来肝細胞株HepG2に16時間TMの刺激を行い、AMPKのリン酸化能を検証した結果、TM 0.01 mM, 0.1 mMにおいて濃度依存性にAMPKのリン酸化効果を認めた。 さらに、メトホルミンによる血糖改善効果および体重減量作用が銅キレート作用を介するか検討するため、肥満糖尿病モデルマウスKK-Ayに対してTMを4週間飲水投与(0.1%, 0.3%)した結果、TM投与量依存的に血糖改善作用および体重減量作用を認めた。以上より、メトホルミンによる薬理作用の少なくとも一部は銅キレート作用を介することが推測された。
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