研究課題
小児期の放射線被曝により甲状腺癌が誘発されることはよく知られる。我々は、ラットを用いた甲状腺局所X線照射実験により、新生仔期甲状腺被曝は、発癌リスクばかりでなく、甲状腺機能へも特異的に影響を与え、その作用は成体期にまで長期に及ぶことを実験的に明らかにした。甲状腺機能は個体発達に必須であり、障害されると成長遅延等の大きな健康リスクとなり得る。本研究では、小児期放射線被曝による甲状腺機能への影響についての詳細を明らかにし、その障害メカニズムを解明し、さらに被曝による小児期甲状腺の発癌メカニズムへの関わりについても明らかにする。2021年度は、新生仔期に甲状腺局所X線照射した甲状腺組織で、遺伝子発現に継続的な影響があることを明らかにした。アポプトーシス/増殖に関わるFas、Mki67、分化マーカーのMct8、Lat4、甲状腺癌マーカーのMet、Lgals3のmRNA発現を測定した結果、FasおよびLat4は新生仔期X照射のみで28週後でも上昇していた。また、低ヨード食(IDD)投与の遺伝子発現への影響は明らかで、IDD群及び新生仔期被曝IDD群では、いずれの遺伝子発現も有意に変化した。新生仔被曝IDD群のLgals3発現は、IDD群に比べさらに上昇していた。これらの結果から、新生仔期の単回被曝により、甲状腺濾胞組織の遺伝子発現が長期間にわたり影響を受けることが明らかになった。その変化は甲状腺癌プロモーターであるIDD投与の影響と類似しており、新生仔期被曝による甲状腺発がんメカニズムを担っていると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
第一目標であった頸部放射線被曝の甲状腺遺伝子発現への影響解析結果について成果を得て論文に公表できた。また、次の段階である網羅的遺伝子解析実験も順調に進んでいるため。
新生仔期頸部放射線被曝による甲状腺遺伝子発現への影響を網羅的に解析する予定である。
COVID-19パンデミックによる品不足により、発注していたプラスチックプレート等の納期が遅れたため。2022年度の入荷後の支払いに充当する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 4件、 査読あり 14件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 8件、 招待講演 2件)
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