研究実績の概要 |
小児期放射線被曝が甲状腺癌発症リスクであることは、原発事故後よく知られるようになったが、影響評価と防護対策のためには、そのメカニズムの解明が必要である。我々は、ラットを用いた甲状腺局所X線照射実験により、新生仔期甲状腺被曝は、発癌リスクばかりでなく、甲状腺機能へも特異的に影響を与え、その作用は成体期にまで長期に及ぶことを実験的に明らかにした。さらに、単回被爆後に甲状腺の一部の遺伝子発現が長期的に変化することを明らかにした。 本年度は、網羅的遺伝子発現検索により、新生児期被爆で特異的に発現変化する遺伝子を同定した。1週または8週齢の雄Wistarラット頸部へX線照射(0, 6, 12Gy)し、それぞれ2ヶ月後に剖検して得た甲状腺組織から全RNAを抽出しRNA-Seq法で発現変動した遺伝子を網羅的に同定した。1週齢頸部X線照射(0, 12Gy)後6.5ヶ月間の低ヨード食投与により誘発した甲状腺腫瘍について、同定した遺伝子の発現を解析した。線量依存性を考慮したRNA-Seq検索により、新生仔被爆で発現上昇した遺伝子114、下降した遺伝子29が同定された。そのうち「新生仔被曝特異的」に発現が変化したものは14遺伝子(上昇9、下降5)であった。甲状腺被曝により新生仔期被曝特異的に長期な発現変化が引き起こされる遺伝子群が存在することを明らかにした。これらのうちCdkn1aとVnn1は、甲状腺腫瘍化に伴った発現上昇が観察されたことから、小児期放射線被曝による甲状腺腫瘍化/癌化に関与する可能性が示唆された。
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