研究課題/領域番号 |
20K08887
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
田部 勝也 山口大学, 医学部附属病院, 講師 (00397994)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 糖尿病 / インスリン / 膵島 / 脱分化 / 小胞体ストレス / 細胞可塑性 |
研究実績の概要 |
Wolfram症候群のモデル動物Wfs1欠損マウスでは膵β細胞において小胞体ストレス亢進をきたし糖尿病を発症する。このマウスの膵島で増加するThioredoxin-interacting protein(Txnip)とβ細胞不全との関連を検証するためWfs1欠損マウスとTxnip欠損マウスを交配させ二重欠損マウスを作成し解析を行った。Wfs1欠損マウスのβ細胞不全の病態は細胞可塑性に基づく脱分化であることを見出してきたが、二重欠損マウスでは脱分化が抑制されグルコース応答性インスリン分泌が回復し、全ての観察個体で糖尿病の発症が予防された。二重欠損マウスの膵島ではβ細胞の成熟性を示す転写因子MafAやNkx6.1の発現が維持されるとともに前駆細胞マーカーneurogenin3の出現がほぼ完全に抑制された。膵島における網羅的遺伝子発現解析より、二重欠損マウス膵島ではWfs1欠損マウスと同様に小胞体ストレス応答経路に関わる遺伝発現増強をきたすが、β細胞分化、細胞成熟およびインスリン分泌に関連する様々な遺伝子発現の回復を認めた。一方、メタボローム解析と代謝動態解析よりWfs1欠損マウス膵島では解糖能低下と分岐鎖アミノ酸利用亢進が示唆された。解糖能の低下はTxnip欠損により回復し、Txnipとの結合を見出したピルビン酸脱水素酵素の機能抑制性リン酸化増加が二重欠損マウスでは完全に抑制された。一方、Wfs1欠損マウスで観察されたGLP-1受容体アゴニストのβ細胞保護効果が脱分化抑制と関連しており、さらにTxnip発現増加が抑制されることを明らかにした。以上の結果より、Wolfram症候群をモデルにβ細胞脱分化に対するTxnipを標的とした治療法開発の基盤創出が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
作業仮説に矛盾しない研究成果を得ており計画通りに研究を進めることが可能であった。Txnipを介する分子メカニズムの解析にも着手しており、生化学的実験に加え網羅的ゲノム機能解析についてデータ解析を進めている。以上より、研究を遅滞なく進められており概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で研究計画に修正を要す点はないと考えており計画に従い研究を進めていく。脱分化に関連するゲノムワイドなクロマチン構造変化の解明を行う。すでにATAC-seqの解析に着手しており、今後データ解析を進めていく。他方、GLP-1受容体作動薬による脱分化抑止とともにGLP-1受容体シグナルを介したTxnip発現制御機構を解明する。Txnipによる酸化的解糖調節について、Txnipを介したPDHのリン酸化制御機構を解明する。ここでは、Txnipが足場分子として機能しPDH kinaseによるPDHのリン酸化促進を仮説し、培養細胞系を用いて解析を行う。一方、Txnipによるゲノム機能制御に関して、これまでに見出しているTxnipとHDAC3のタンパク結合に着目し、種々の転写調節因子のcofactorであるPGC1alphaの遺伝子発現やHDAC3との複合体形成に対するTxnipの役割を明らかにしていく。以上、これまでに得られた成果に基づき研究を発展させβ細胞脱分化機構とそこでのTxnipシグナルの解明を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費として計上した予算についてほぼ予定通りに使用した。一方、研究が順調に進展したため動物飼育費として予定した支出を抑えることが可能であった。また、成果発表を行った国際学会および国内学会がいずれもweb開催となったため旅費を計上する必要がなかったことから次年度使用額が生じた。次年度において細胞培養試薬購入と動物飼育費用に充て実験の効率化とともに培養細胞より得られた結果を当初予定していなかった動物実験でも検証するなど研究の拡充を図る。
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