インスリン依存性糖尿病を特徴とするウォルフラム症候群の疾患モデルWfs1欠損マウス(KO)ではβ細胞が脱分化しインスリン分泌不全をきたす。KO膵島では小胞体ストレス亢進とともにTxnipの発現が増加し、Wfs1:Txnip二重欠損マウス(DKO)では脱分化が抑止され全個体で高血糖の進展が予防された。DKO膵島では小胞体ストレス応答はむしろ亢進しておりTxnipが他の経路を介して脱分化誘導に寄与することが考えられた。β細胞数が維持される10週齢KOの膵島ではピルビン酸脱水素酵素(PDH)の機能抑制性リン酸化が亢進し、酸化的解糖が著しく減弱した。一方、DKO膵島ではPDHのリン酸化が抑制されており酸化的解糖とATP産生が野生型と同等にまで回復した。この分子機構としてTxnipがPDHとPDH kinaseと蛋白結合を介してPDHのリン酸化調節に関与することを突き止めた。一方、TxnipとHDAC3の蛋白結合を見出し、ゲノム機能との関連についてATAC-seqを行い検討した。KO膵島では、Ins2やMafAのプロモーター領域や転写調節領域のオープンクロマチン量が減少するが、これらがDKO膵島では回復した。一方、GLP-1受容体活性化によりTxnipの発現が転写レベルと翻訳後レベルで抑制した。GLP-1アナログを慢性投与したKOでは膵島におけるTxnip発現上昇が抑制されGSISと耐糖能が回復した。この時、膵組織においてMafA陽性細胞数の回復とNgn3陽性細胞数の減少を認め、GLP-1治療による脱分化抑制が示唆された。以上の研究成果は、ウォルフラム症候群におけるβ細胞不全の病態解明とともにTxnipを標的とする治療戦略の提案につながり、細胞内ストレス亢進との関連が想定されている2型糖尿病におけるβ細胞の病態理解にも寄与する。
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