研究課題
生体のコレステロール(Chol)は食事由来でなく主に肝臓など生体内で合成される。Chol合成経路を抑制するHMG-CoA還元酵素(HMGCR)阻害薬スタチンによって、近年血糖が上昇することが報告された。しかしこの機序は十分に解明されていない。我々は、脂質代謝及び糖代謝における中心的な役割をもつ肝臓に注目して、Chol合成と糖代謝の関連に関する研究を行ってきた。これまでに肝細胞特異的HMGCR欠損(L-HMGCRKO)マウスは、スタチンの血糖上昇作用とは逆に、生後4週目から肝機能障害とともに重度の低血糖を呈し、加えてChol合成経路の下流に位置するスクアレン合成酵素(SS)の肝細胞特異的欠損マウスでも、肝機能障害とともに12週齢で血糖が低下することを明らかにした。この原因としていずれのマウスでも糖新生に関わるG6Pase mRNAが有意に低下していること見出した。本研究は、Chol合成経路の抑制と糖新生経路の抑制の関連を見出すことを目的として開始した。HMGCRあるいはSS抑制と糖新生低下を結びつけるものとして既知のmRNAや転写因子の動態の変化では説明が困難であったために、L-HMGCRKOマウス肝臓において、RNA sequence解析を行い、microRNA(miR)のクラスターであるmiR-96/182/183の発現亢進を明らかにした。このmiRクラスターはFOXO1の抑制を介して糖新生を抑制しうることを想定している。このことを生体で確認するために肝機能障害が沈静化したL-HMGCR及びL-SSKOマウス生体で経口ブドウ糖負荷試験をおこなったが、血糖の変化は見られなかった。これはHMGCR及びSS抑制による糖新生低下には肝機能障害に伴うことが示唆される。今後はコレステロール合成経路の抑制による肝機能障害を伴う糖新生抑制の新たな関連を明らかにすることを考えている。
4: 遅れている
研究に用いる遺伝子改変マウスの産出が母親の喰殺などにより当初の予定より少なかったため。加えて遺伝子改変マウスの親となる雄雌つがいケージ数をふやそうとするもスペースの確保が困難であった。また退職に伴う実験協力者の不足も遅延の理由となっている。
研究に用いる遺伝子改変マウスの産出が当初の予定より少なく、その原因として母親の生育環境におけるなんらかのストレスと考えられ、そのストレスを減らし、生育環境を整えるべくシーファードシャックという巣箱をケージ内に入れて対応している。これらのことから喰殺が減少している。加えて、遺伝子改変マウスの親となる雄雌つがいケージ数をふやす申請を行っている。さらに動物数の影響を受けないような培養胞を用いた実験に重点を置きはじめている。
本研究計画が現時点ですべて遂行し得ていないため、次年度使用額が生じている。具体的には本研究を遂行にあたり、引き続き試薬、研究機器の維持及び、動物飼育費を必要とする計画である。
すべて 2022
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 4件)
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