研究課題/領域番号 |
20K08896
|
研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
長崎 弘 藤田医科大学, 医学部, 教授 (30420384)
|
研究分担者 |
金子 葉子 岐阜医療科学大学, 薬学部, 教授 (20319263)
小谷 侑 藤田医科大学, 医学部, 講師 (60644622)
河田 美穂 藤田医科大学, 医学部, 助教 (90761601)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 下垂体組織幹細胞 / 下垂体腫瘍 / 組織幹細胞 / 再生医療 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒト下垂体疾患を対象にした再生医療の技術的基盤の開発を目的とし、手術時に摘出される新鮮なヒト下垂体前葉組織から分離培養した下垂体幹細胞(Pituitary stem cells : PSC)を対象にした検討を実施している。 これまで齧歯類等で多くの研究者によって、下垂体の前葉組織内に成体幹細胞が存在し、各種細胞へと分化能を有する事が示されている。その一方で、入手が困難であるヒトの下垂体組織における知見は非常に乏しい。本研究では、前年度までに、下垂体腫瘍手術で得られたヒトの摘出検体にて、既知の幹細胞特異的分子マーカー抗体を用いた免疫組織染色 及び、ヘマトキシレン・エオジン染色法をおこなうことで『ヒト下垂体組織にはPSCが存在する。』という事を明らかにしている。これと同様に、下垂体腫瘍幹細胞(PASC: Pituitary adenoma stem cells)の存在も確認している。 そこで、これまで十分な知見の得られていないヒトPSCとPASCとの相違点を探るための一つの手段として、まずは下垂体内でも領域によって異なる特徴を示すと考えられている幹細胞、(1)境界PSC(下垂体中葉と前葉との境界にあるPSC) と(2)実質PSC(前葉実質にあるPSC)、の違いを明らかにするためsingle cell RNA-seq法にて、まずはラット下垂体を用い解析中である。このラットでの実験はヒト検体組織の解析の準備実験という意味だけではく、下垂体前葉細胞の発生及び恒常性維持の解明にも繋がる。また病態の異なるいくつかのヒトの摘出検体においても同様の手法を用い解析中であり、これらのデーターとラットの結果と比較する事で、臨床的な意義も得る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において、ヒト下垂体組織にてPSCとPASCの存在が確認できた事より、両者の性質の相違点を明らかにする事を目指し、研究を進めている。その段階のひとつとして、ラット下垂体を用い、同じ下垂体前葉組織中で性質が異なると予測されている大きく分けて二つの領域を区別するために、(1)境界PSCと実質PSC (2)実質PSCのみ と領域別に顕微鏡下で切り分けた各組織から細胞を分離した。この各々の細胞群をsingle cell RNA-seq法で解析し、両者の違いを生み出す遺伝子を探索、解析中である。それらの結果より、いくつかの候補となる遺伝子の発現領域について、固定標本を用い、より確実な結果を得つつある。また、ヒトの摘出検体においても、ラット下垂体のデータおよびヒトiPS細胞由来視床下部―下垂体オルガノイドとの比較や、病態の異なる検体間でのPASCの差異を見出す事を目指し、解析中である。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの結果より、本研究で存在が確認できたPSC及びPASCを単離、培養する事を目指し、single cell RNA-seq解析法で得た結果から、境界PSC及び実質PSCに対する新規の特異的表面抗原の抗体を用い、ラット下垂体組織及び手術検体からMACS法により、PSC及びPASCの単離を行う。この単離した細胞を数日培養し、形成したsphereをGSK3B 阻害剤(細胞増殖抑制剤)等を加え、さらに培養することで下垂体分泌細胞特異的分子マーカーにて目的とする種類の細胞ができるか確かめる。次の段階では、single cell RNA-seq解析法にて得られた結果から、細胞運命決定因子群の候補となる新規因子の阻害実験及び強制発現実験を行う事で、目的とする特定の下垂体分泌細胞を作り出す事ができるか確かめる。これらの処置がPSC及びPASCにおいて、それぞれどの様な結果を生ずるのか比較検討していく。最終的には、単離、培養で得た細胞群を、免疫不全ラット系統の下垂体部、及び異所性皮下ないし腎皮膜下へ移植を試みる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度にもシングルセルRNA-Seqの受託解析を予定しており、そのための経費を次年度に繰り越した。
|