研究課題/領域番号 |
20K08898
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴弘 久留米大学, 付置研究所, 准教授 (50368883)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | トーパー |
研究実績の概要 |
一部の哺乳類や鳥類では食物が欠乏すると能動的に核心体温を低下させて生命を維持する。このような生理現象をトーパー(torpor)と呼び、食物の欠乏という危機的な状況下での生存戦略として知られている。低体温症と異なり、トーパーでは食物を摂取すると速やかに正常値まで体温を回復することができる。しかもこのとき、脳を含む全身の臓器には一切障害を残さない。したがって、トーパーの全貌を明らかにできれば、肥満症や糖尿病の新しい治療薬の創出が期待できる。さらに、安全な低代謝の誘導・維持によって臓器を長期間保存する技術の確立といった次世代型医療への展開も考えられる。 前年度は、研究代表者が樹立したトーパーの解析に適したモデルマウスを用いて研究を進め、トーパーの誘導や維持を制御しうる複数の遺伝子群を抽出した。本年度は、これらの遺伝子群を指標とした解析ができるように、培養系を用いた実験系の構築を進めてきた。具体的には、様々な外部シグナルに対してグレリン細胞がどのように反応してグレリンを分泌し、前年度に抽出した遺伝子群の変化を誘導するのかを解析することを目標として、グレリン分泌細胞株におけるシグナル受容器の形態解析を電子顕微鏡レベルで進めた。さらに、このシグナル受容器を単離して発現受容体を同定するといった分子生物学的な解析ができるように、単離技術の構築に関する研究も現在進めている。早期にこの技術を完成させて外部シグナルに対するトーパーの誘導や維持に関わる遺伝子群の変化を解析したいと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、どのようにトーパーの誘導が開始され、どのような機構でトーパーが維持されるのかを分子レベルで解析するものである。本年度はトーパーを誘導・維持するために必要な神経回路や分子を同定して報告できたことから、本研究で解明すべき課題のひとつを達成できたと考えている。したがって、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
前述のように、これまでにトーパーを誘導・維持するために必要な神経回路や分子を同定することができた。今後は反応系の起点となるグレリン細胞に着目し、外部シグナルに対してどのように反応してトーパーを誘導するのかを明らかにしていきたい。そのための実験系は確立しつつあるため、グレリン分泌細胞株に存在する受容体を解析し、まず、どのような受容体があるのか、次に、どのような機構で外部シグナルを受容するのかまでを解析したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定よりも論文投稿料が安価に収まったため次年度使用額が生じた。この費用は、試薬類の値上がり分として次年度に相殺される見込みである。
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