研究課題
多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1型)の標的内分泌組織の腫瘍化における、MEN1遺伝子両alleleの欠失、すなわちMEN1遺伝子のヘテロ接合性の欠失(loss of heterozygosity: LOH)の機構解明のため、以下の実験を行った。1)MEN1型のモデルマウスであるMen1ヘテロ欠損マウス(Men1+/-)では、約9月齢から膵内分泌腫瘍を発症するため、腫瘍発症前段階である5月齢と8月齢でマウスからコラゲネース法にて膵島細胞を単離し、total RNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ解析を施行した。得られた結果を用いて、パスウェイ解析、Go-fisher解析を施行し、DNA複製因子群、細胞周期調節因子群などでの遺伝子変動が多いことが判明した。私達は既に10-12月齢のMen1+/-より単離した膵内分泌細胞を用いて同様のcDNAマイクロアレイ解析を施行していたが、今回の5月齢および8月齢のMen1+/-より単離した膵内分泌細胞における変動遺伝子群と10-12月齢のマウスからの結果は相違していた。2)Men1遺伝子の転写産物meninの共役結合蛋白として知られる転写因子JunDへの抗体を用いて、膵内分泌腫瘍細胞株にて免疫沈降を行い、回収した断片化DNAを試料としてChIPシークエンスを計画した。そのためまずマウス膵β細胞過形成株(βHC-9)から、核蛋白成分を抽出し、市販の抗JunD抗体にて免疫沈降させた。得られた沈降物を電気泳動後、抗menin抗体や、これまでmeninとの共役結合が報告されている種々の蛋白質(巨大転写複合体の構成要素である、MLL, Ash2, RbBP5など)への抗体を用いてウェスタンブロット解析を行ったが、これら蛋白質の発現が確認できなかった。
2: おおむね順調に進展している
MEN1型におけるLOH発症機構の解明のために、令和2年度の研究として、1)Men1ヘテロ欠損マウスでの膵内分泌腫瘍発症前段階における変動遺伝子群の解析、2)膵β細胞株を用いたmeninおよびJunDに結合する蛋白質群の単離と同定、を計画していたが、1)については、当初の計画通りに試料の単離・精製からcDNAマイクロアレイ解析まで施行し、野生型と比較して複数の変動遺伝子群を抽出した。2)については、使用した抗JunD抗体では、これまでmeninと共役結合が報告されている蛋白質群の免疫沈降を確認できなかった。現在、使用する抗体の見直しや免疫沈降法、ウェスタンブロット法の条件の再設定に取り組んでいる。
1)Men1ヘテロ欠損マウスの膵内分泌腫瘍発症前段階における変動遺伝子群と、膵内分泌腫瘍発症後である10月齢以降の膵島細胞を用いた解析とでは、変動する遺伝子群に差があることが判明した。特に腫瘍発症前段階で生じている遺伝子発現変動が、Men1野生型alleleの消失に関わっていることが予想され、現在、これまでの発表論文や遺伝子データベースを検索し、LOH発症に関与する遺伝子群の絞り込みを行う。候補遺伝子群が同定されれば、実際のマウス膵内分泌組織における遺伝子発現解析を定量的qPCR法や免疫染色法など用いて行う。またマウス試料の条件を一致させてのRNAシークエンス法による解析も検討する。2)膵β細胞株を用いた抗JunD抗体を用いての免疫沈降法については、抗体、実験条件の見直しを行って再施行する。
令和3年度の研究計画の一つとして、ヒトMEN1型に発症した膵内分泌腫瘍組織を用いての遺伝子/蛋白発現解析を予定している。令和2年度の研究の結果から絞り込まれた遺伝子/蛋白質の腫瘍検体における発現解析を行うための、試料精製費用、免疫染色費用、qPCR法費用に使用予定であるため。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Scientific reports
巻: 10 ページ: 9999
10.1038/s41598-020-66570-0.
日本臨床
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内科
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