本研究では、小胞体ストレス応答の中でもATF6βを介した転写制御機構に着目して、肥満・糖尿病における細胞機能低下及び病態悪化の分子機構の解明とATF6βを標的とした肥満・糖尿病に対する創薬応用を目指す。ATF6βを全身で欠損したマウスは、高脂肪食給餌による体重の増加が優位に抑制されており、主要な代謝臓器を標的に体重増加抑制を担う責任臓器の同定を目指した。本研究においてCre/loxP法で肝臓特異的にATF6βを欠損した遺伝子改変マウス、およびCRISPR/Cas9システムを用いて脂肪組織もしくは骨格筋もしくは単球においてATF6βとパラログであるATF6αを組織特異的に2重欠損した遺伝子改変マウスでは高脂肪食給餌による体重増加に差は認められなかった。よって、これらの臓器・細胞においてATF6βは、高脂肪食による肥満や糖尿病の進展に関与していないことが示唆され、他の代謝関連臓器の関与や複数臓器での欠損が重要であることが考えられた。一方で、CRISPR/Cas9システムを用いて肝臓特異的にATF6βとATF6αを欠損したマウスにおいて高脂肪食による体重増加が抑制されることがわかった。さらに、Cre/loxP法でATF6βとATF6αを欠損したマウスは通常食でも体重と肝重量の低下が認められ、肝機能においてATF6βとATF6αが重要であることが判明した。ATF6β/ATF6α欠損マウスと対照マウスの肝臓においてRNA-seq解析を行ったところ、脂質代謝関連遺伝子の一部が低下していることがわかった。以上より、ATF6β単独での肥満・糖尿病の増悪化は、主要な代謝臓器以外が担っていることが判明し、今後さらなる検討により創薬標的としての検証を進める。
|