研究課題/領域番号 |
20K08910
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
大澤 春彦 愛媛大学, 医学系研究科, 教授 (90294800)
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研究分担者 |
高田 康徳 愛媛大学, 医学系研究科, 准教授 (20432792)
川村 良一 愛媛大学, 医学系研究科, 講師 (90533092)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | レジスチン / インスリン抵抗性 / SNP / エピジェネティクス / 遺伝子発現 / 2型糖尿病 / 遺伝子 / 環境因子 |
研究実績の概要 |
レジスチンは、インスリン抵抗性を引き起こすサイトカインである。申請者らは、その遺伝子発現が転写調節領域の2つの一塩基多型(SNP)、-420と-358の”配列特異的効果”によって強く規定されることを見出した。すなわち、SNP-420/-358配列がG-Aでレジスチン高発現、C-Gで低発現となる。本研究では、この独自の知見に焦点を絞り、SNP-420とSNP-358の”配列特異的遺伝子発現制御機構”を解明する。まず、ゲノム編集により、全ゲノム配列のうち、SNP-420とSNP-358の2か所のみの配列が異なるレジスチン高/低発現の培養、幹、iPS細胞を作製し、配列特異的に規定されるクロマチンaccessibility、転写因子、共役因子を同定する。同時に、配列特異的レジスチン発現の変化に呼応する標的遺伝子を同定する。さらに、遺伝疫学により、配列特異的に関連する早期のインスリン抵抗性のサブタイプを見出す。こうして、レジスチン遺伝子発現制御機構におけるプロモーターSNP配列特異的効果を統合的に解明し、2型糖尿病発症予防のための高精度先制医療戦略を確立する。 一般住民約2000名について、喫煙者で血中レジスチンは高かった。SNP-420/-358のハプロタイプを解析した結果、G-A/G-Aの喫煙者において血中レジスチンは最も高く、ハプロタイプと喫煙に交互作用を認めた。年齢、性、BMIをマッチさせたG-A/G-AもしくはC-G/C-G、喫煙の有無の4群について、全血細胞のレジスチンmRNAをRT-PCRで定量した。その結果、G-A/G-Aにおいて、喫煙者は非喫煙者と比べてレジスチンmRNA及び血中濃度は高かったが、C-G/C-Gでは、関連しなかった。以上より、レジスチンSNP-420、SNP-358のハプロタイプの組合せと喫煙は、レジスチンmRNA及び血中濃度を高めることが想定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までに、日本人一般住民約2000名について、SNP-420とSNP-358のハプロタイプの確認をほぼ終了した。本年度は、環境因子や検査結果も含めてデータベースをさらに整備した。一般住民について、内容を縮小し検診を実施した。 前年度までに、一般住民約2000名についてSNP-420/-358のハプロタイプを解析した結果、G-A/G-Aにおいて血中レジスチンは最も高く、喫煙による上昇を認めた。一般住民約2000名についてSNP-420/-358のハプロタイプを解析した結果、G-A/G-Aにおいて血中レジスチンは最も高く、喫煙による上昇を認めた。年齢、性、BMIをマッチさせたG-A/G-AもしくはC-G/C-G、喫煙の有無の4群について、全血細胞のレジスチンmRNAをRT-PCRを用いて定量した。その結果、G-A/G-Aにおいて、喫煙者は非喫煙者と比べてレジスチンmRNA、及び血中濃度は高かった。一方、C-G/C-Gにおいては、関連を認めなかった。以上より、レジスチンSNP-420、SNP-358のハプロタイプの組合せと喫煙は、レジスチンmRNA及び血中濃度を高めることが想定された。 本年度は、喫煙の有無で、耐糖能と血中レジスチン、及びインスリン抵抗性との関連を解析した。喫煙者では、正常耐糖能と比べて、境界型または糖尿病で血中レジスチンが高かった。インスリン抵抗性は境界型または糖尿病の喫煙者で最も高かった。喫煙と血中レジスチン高値は、インスリン抵抗性及び耐糖能悪化と関連する可能性が示唆された。 以上より、一般住民において、ハプロタイプと喫煙という環境因子、レジスチンSNPのハプロタイプとレジスチン血中濃度、全血mRNAとの関連について有意な結果が出ており、概ね予定通り研究は進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
一般住民の多数例について、レジスチンハプロタイプと血中レジスチン濃度の関係、さらには、喫煙をはじめとする環境因子との関連を遺伝疫学的にさらに解析していく。また、インスリン抵抗性や炎症などにより表現型を細分類し、血中レジスチンと関連する表現型のサブタイプを見出す。メンデルランダム化解析の理論に基づき、ハプロタイプと表現型の関連を明らかにし、因果関係を類推する。定量化が可能な環境因子については、ハプロタイプの血中レジスチンへの効果を相互作用も含めて解析し、遺伝子・環境因子相互作用のモデルを構築していく。さらに、全血細胞から抽出したRNAを用いて、ハプロタイプの違いによるレジスチンの標的mRNAへの効果の違いをRNAseqで解析し、RT-PCRで確認していく。また、THP-1ヒト単球細胞を用いて、環境因子を代替えする因子について、レジスチンmRNAをはじめ、プロモーター活性、メチル化等への影響を幅広く解析していく。こうして、レジスチン遺伝子発現制御機構におけるプロモーターSNP配列特異的効果を統合的に解明し、2型糖尿病発症予防のための高精度先制医療戦略の確立に向けて研究を推進していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝疫学解析について、血中サイトカイン等を測定するに当たり、キットのロット間のバラつきを調整する必要性が想定された。そこで、適宜基礎検討をした後に、多くのサンプルをまとめて同一ロットで測定した方が効率的であると考えられた。さらに、コロナウイルス感染拡大の影響で検診を縮小したため、次年度使用額が生じた。 次年度は、さらに遺伝疫学解析を推進するために、血中サイトカイン等測定、DNA抽出とSNPタイピングに必要なTaqman法、DNAシークエンスのための試薬を購入する。In vitroの解析を進めるために、細胞培養、RNA定量、ルシフェラーゼアッセイ等に必要な試薬を購入する。必要に応じ、RNAseqも行う。また、細胞への遺伝子導入に用いるベクターの作成に必要な修飾・制限酵素やDNAシークエンスに必要な試薬の購入をする。可能であれば従来通りの規模で検診を実施する予定である。
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