研究課題
糖尿病性多発神経障害(diabetic polyneuropathy; DPN)は高頻度な糖尿病性合併症であるが、有効な治療法は未確立であり、さらなる機序解明が必要な状況である。本研究では、DPNの新たな発症機序として、タンパクの翻訳後修飾の一つであるO-結合型Nアセチルグルコサミン(O-GlcNAc)修飾に注目した。O-GlcNAc修飾は中枢および末梢神経系の機能維持において重要な役割を果たすことが知られている。そこで本研究では、末梢神経系のO-GlcNAc修飾タンパクを探索し、そのDPNの病態におよぼす影響を解明する。方法は、大きく3つに分けられる。実験1は、感覚ニューロン株・シュワン細胞株を用いグルコース負荷によるO-GlcNAc修飾の変化が生じるタンパクを網羅的に探索し、細胞機能に変化をもたらすタンパクを同定する。実験2は、糖尿病モデルマウスの末梢神経系においてO-GlcNAc修飾の変化を解析し、実験1で得られた知見と併せ、病態形成に寄与するタンパクを絞り込む。実験3は、末梢神経系特異的O-GlcNAc転移酵素(OGT)欠損あるいはO-GlcNAc脱転移酵素(OGA)欠損マウスを作成し、糖尿病状態とした上で、DPNの発症・進展の変化を比較検討する。実験1のペプチドシークエンスを実施し、候補タンパクのリストを得た。血中アミノ酸分析を実施しO-GlcNac化に及ぼす影響を解析した。また、RNA sequencing解析ではGO解析では、コントロールと比較して、GlcNAc負荷群で、2倍以上発現が上昇した遺伝子群では、50種類のGO termが有意に検出され、2倍以上発現が低下した遺伝子群では、17種類のGO termが有意に検出された。DEG解析では、遺伝子発現が有意に2倍以上上昇した遺伝子が39検出され、有意に2倍以上低下した遺伝子が48検出された。