研究課題/領域番号 |
20K08921
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
野村 政壽 久留米大学, 医学部, 教授 (30315080)
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研究分担者 |
蓮澤 奈央 久留米大学, 医学部, 助教 (00837908)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プリン受容体シグナル / ミトコンドリアダイナミクス / VNUT / DRP1 / 慢性炎症 / NASH |
研究実績の概要 |
ミトコンドリアは生体の栄養状態(同化/異化)を感知し、常に融合・分裂のバランスを変化させ、動的にその構造を変化させている。このミトコンドリアダイナミクスはミトファジーによるミトコンドリアの品質管理のみならず、ATP産生を制御している。すなわち過食、過栄養に伴いミトコンドリアは分裂に傾き、ATP産生を亢進させ、一方、飢餓時などエネルギー供給が低下した場合には融合に傾く。VNUTを介して細胞外へ分泌されたATPは、プリン受容体シグナルの活性化を介して炎症を惹起している。すなわち、代謝産物であるATPはDAMPとしての作用も併せ持ち、代謝と炎症をリンクする分子である。高脂肪食により肝臓においてVNUT発現が増加し、食後にこのVNUTを介して細胞外へ小胞分泌されるATPが炎症を惹起する。VNUTの阻害薬として我々が同定したクロドロン酸は、高脂肪食負荷により引き起こされる非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、肝硬変を完全に抑制する(Sci Rep 2021)。すなわち、VNUTは高脂肪食・高カロリー食によるNASH・肝硬変の治療標的であることを明らかにした。この際の肝臓におけるDRP1発現とVNUT発現には正の相関関係を認め、エネルギー代謝亢進により炎症が惹起されていることが示唆された。これらの結果からミトコンドリアダイナミクスがVNUTを介する細胞外ATP分泌を制御していることが示唆された。一方、肝細胞でのミトコンドリア分裂を抑制するとミトファジーが起き難くなり、その結果、高脂肪食負荷によりNASH、肝硬変が生じることを見出した(Commun Biol 2021)。ミトコンドリアダイナミクスは、小胞型ATP分泌、オートファジーを制御しており、これらの制御機構の解明を行い、新たなエネルギー代謝と慢性炎症の制御法の開発・臨床応用へ向けた基礎的基盤の確立を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
①ミトコンドリアダイナミクスによるVNUT発現・機能調節機構 1) 野生型マウス初代培養肝細胞を用いた解析:高グルコース刺激により、VNUT mRNA発現は8h後に約2倍に増加。その際DRP1蛋白リン酸化の亢進が見られた。既報と同様に、培養上清へのATP分泌が見られ、クロドロン酸の添加によりこのATP分泌はキャンセルされた。またクロドロン酸の添加はDRP1のリン酸化を抑制したことから、VNUTによるプリン受容体シグナルによるDRP1の活性化制御機構の存在を明らかにした。 2) Drp1欠損マウス初代培養肝細胞を用いた解析:DRP1欠損初代培養肝細胞では野生型と比較し、VNUT mRNA発現が亢進し、培養上清中の炎症性サイトカインが高値を示していた。一方で、肝細胞のミトコンドリア形態を、MitoTrackerを用いて観察すると、高グルコース濃度では野生型ミトコンドリアは分裂し、VNUT欠損マウス肝細胞のミトコンドリアは融合し網状パターンを呈していたことから、DRP1の活性はVNUT欠損により抑制されることを明らかにした。この現象は野生型マウス初代培養肝細胞を用いたクロドロン酸の添加実験でも再現された。 ② Mtダイナミクスとプリン受容体シグナル VNUT欠損マウス肝細胞のMtが融合し網状パターンを呈していたことは、DRP1を介したミトコンドリア分裂にVNUTが不可欠であることを示唆している。VNUTの存在自身が不可欠なのか、あるいは細胞外ATPシグナルが不可欠なのかを明らかにした。野生型マウス初代培養肝細胞に飽和脂肪酸ならびにプリン受容体阻害薬MRS2211を添加し、ミトコンドリア形態を観察したところ、PBOと比較し、ミトコンドリアは融合傾向を示し、ミトコンドリア分裂に細胞外ATPによるプリン受容体(P2Y13)シグナルの活性化が関与していることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
①VNUT欠損マウス初代培養肝細胞を用いて解析を追加し、高グルコース刺激によるDRP1蛋白の発現解析を行い、VNUTによるプリン受容体シグナルによるDRP1の活性化制御機構を明らかにする。 ② Mtダイナミクスとプリン受容体シグナル:高グルコース濃度では野生型ミトコンドリアは分裂し、一方VNUT欠損マウス肝細胞のミトコンドリアは融合し網状パターンを呈していたことからVNUTを介するプリン受容体シグナルがミトコンドリア分裂に対して促進性に作用し、細胞内ATP産生を正に制御している可能性を示唆する。クロドロン酸及びプリン受容体作動薬・阻害薬を用いて、Mtダイナミクスの変化を観察し、このフィードバック機構を解明する。細胞外フラックスアナライザーを用いて細胞の解糖系及びMt呼吸活性を経時的に計測し、プリン受容体シグナルによるMt機能への影響を解析する
③ 肝細胞特異的DRP1/VNUT 複合欠損マウス:個体レベルでの検証を行う。Drp1flox/+,Albumin-CRE+とVNUT-/-を交配し、Drp1flox/+,VNUT+/-,Albumin-CRE+マウスを作成する。得られたマウス間で交配し、Drp1flox/flox,VNUT-/-,Albumin-CRE+マウスを作成する。肝臓において両分子を欠損するマウス作成し、各遺伝子単独欠損マウスならびに複合欠損マウスの表現型を比較することで、個体レベルでDRP1とVNUTの関連を明らかにする。また、高脂肪食負荷時にDRP1LiKOマウスで見られる肝臓の炎症所見を評価し、Mtダイナミクスで制御されるプリン受容体シグナルの炎症における役割を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請どおりに適正使用した結果、若干の費用の繰越が生じた。
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備考 |
久留米大学内分泌代謝内科 基礎研究
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