研究課題
ミトコンドリアダイナミクスは生体のエネルギーバランスを感知し、ATP産生を制御する。ミトコンドリア分裂はミトファジーによるミトコンドリア品質管理に不可欠である反面、過食、過栄養に伴いVNUTを介するATP分泌は増加し、プリン受容体シグナルの活性化を介して炎症が惹起され、NASH、肝硬変へと進展する。すなわち、代謝産物であるATPはDAMPとしての作用も併せ持ち、代謝と炎症をリンクさせている。本研究では、ミトコンドリアダイナミクスと小胞型ATP分泌の制御機構の解明を行った。野生型マウス初代培養肝細胞に高グルコース刺激を与えると、VNUT 遺伝子発現は8h後に約2倍に増加し、DRP1蛋白リン酸化が亢進した。VNUT阻害薬であるクロドロン酸の添加により、培養上清へのATP分泌は完全に抑制され、肝細胞のDRP1リン酸化も抑制されていた。一方、ATPの添加によりDRP1リン酸化の亢進が見られた。これらのことから、VNUTを介する細胞外ATPの分泌に引き続くプリン受容体シグナルがDRP1の活性化制御を通じてミトコンドリアダイナミクスを制御していることが示唆された。次にVNUT欠損マウス初代培養肝細胞を用いた解析を行なった。VNUT欠損マウス肝細胞のミトコンドリアの形態は、高グルコース下においても融合した網状パターンを呈し、野生型マウス初代培養肝細胞にクロドロン酸を添加した場合も同様な結果が示された。野生型マウス初代培養肝細胞にプリン受容体阻害薬MRS2211を添加すると、ミトコンドリア形態は融合傾向を示し、ミトコンドリア分裂に細胞外ATPによるプリン受容体(P2Y13)シグナルの活性化が関与していることを明らかにした。本研究から、DRP1を介したミトコンドリア分裂にVNUTを起点としたプリン受容体シグナルが不可欠であることが明らかとなった。
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