研究課題
本年度は、付随研究としてアンギオテンシン転換酵素(ACE)の遺伝子多型と慢性移植肺機能不全(CLAD)の関連について検討を行った。ACE遺伝子には287bpのAlu配列の挿入(insertion:I)または欠失(deletion:D)の多型が存在し、DD遺伝子多型は血漿、組織中の高いACE濃度と関連する事が報告されている。D alleleと骨髄移植後の肺障害、腎臓移植後の慢性移植片機能不全や肺線維症との関連などが報告されている。2008年から2019年7月31日までの間に京都大学病院で生体肺移植を施行されたレシピエント91名、ドナー170例を対象として、ドナー及びレシピエントのACE I/D多型とCLADの関連について検討した。CLADの診断はISLHTの診断基準に基づき、bronchiolitis obliterans syndrome (BOS)、restrictive allograft syndrome (RAS)に分類した。ドナーおよびレシピエントのACE遺伝子多型とCLAD発症までの期間の関連について、ログランク検定を用いて検討した。観察期間中に27例でCLAD(BOS16例、RAS11例)の発症を認めた。レシピエントのACE遺伝子多型とCLADの発症までの期間に有意な関連は認めなかった。ドナーのACE遺伝子多型がDDの症例は、他のgenotypeの症例と比較してRASの発症までの期間が有意に短かった(p=0.03)。生体肺移植において、ドナーがACE I/D多型のDD genotypeを有する事はRAS発症の危険因子である可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
令和2年度に保存検体を用いたテロメア長とCLADの関連に関する検討を行い、令和3年度はACEの遺伝子多型とCLADの関連を明らかにした。概ね予定通りの検討を進めているが、末梢血のテロメア長の測定については測定間の再現性が十分ではなく、更なる検討を行っている。
ACE遺伝子多型とRASの関連が示唆された。本研究は、ACEI/D遺伝子多型と骨髄移植後肺障害の発症が関連するという既報(Miyamoto M, et al. Int J Hematol. 2014)に着想を得ている。近年レニン/アンギオテンシン系がCLADの病態に関与するという報告が出ており(Berra G et al. Eur Respir J 2021)、ACEのI/D多型は骨髄移植後の肺障害とCLADのいずれとも関連する可能性がある。既報の再検証のため、京都大学の骨髄移植症例においても同様の関連が認められるかどうかについて検討を加える予定である。
COVID-19のために旅費を使用しなかった。また、テロメア長の測定にかかる試薬の費用が予定を下回った。次年度には、テロメア長の追加検討、およびACE遺伝子多型とC骨髄移植後肺障害の関連について検討を予定しており、そのための試薬購入を予定している。
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The Annals of Thoracic Surgery
巻: 該当なし ページ: 該当なし
10.1016/j.athoracsur.2021.12.037
Histopathology
巻: 80 ページ: 665~676
10.1111/his.14595