研究実績の概要 |
腫瘍組織は,癌細胞とその周囲に存在する線維芽細胞や血管構成細胞,免疫細胞などの間質細胞から構成され,“tumor-stromal interactions” という相互作用により腫瘍微小環境 (tumor microenvironment, TME) と称される特徴的な環境を形成している (Nat Rev Cancer 17:457-474, 2017).そして癌治療において,宿主のTMEの評価が,予後や治療効果を予測する上で重要な役割を担うことが明らかにされている (Trends Cancer 3:19-27, 2017).申請者は前研究において,癌細胞自身が持つ悪性形質獲得にはTMEにおける動的変化が関与していることを検証してきた. 近年,乳癌領域においても免疫療法 (アテゾリズマブ, ペンブロリズマブ) の有用性が報告されており,今後の乳癌治療の鍵として注目されている.免疫療法は,とくに免疫原性が高いとされるトリプルネガティブ乳癌 (triple-negative breast cancer, TNBC) における有用性が示されている.また宿主の免疫微小環境 (tumor immune microenvironment, TIME) は,癌免疫サイクルの障害の状況により3つの免疫フェノタイプを呈すると報告されている (Nat Med 24:541-550, 2018).本研究では,「免疫応答から捉えたトリプルネガティブ乳癌における全身反応および微小環境変化の検証」と題して,宿主の全身反応やTIMEの変化をダイナミックに捉え,その動態変化や免疫フェノタイプの理解により従来の薬物療法と免疫療法との併用療法や逐次療法など,免疫療法を柱とする次世代の乳癌薬物個別化療法の構築を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
腫瘍免疫応答は薬物療法の修飾によりダイナミックな変化を示し,原発巣と再発巣では異なるTIMEを形成する.乳癌手術症例の手術標本 (原発巣) および転移巣のFFPE標本でのTILsの評価を行い,不均一性や可塑性,動的変化に関わる臨床的因子を明らかにしていく (再発症例 50例程度).またサブセット解析 (CD8, PD-L1, FOXP3, PD-1など) を免疫組織化学染色にて行い,原発巣および転移巣での免疫フェノタイプ(immune desert, immune excluded, immune inflamed) を明らかにし,TIME変化が治療効果や予後に与える影響を検証する.同様にEMT関連因子 (microRNA 200b/c, microRNA 544a, E-cadherin, N-cadherin, Vimentin, Snail, Twist, ZEB1/2など), 低酸素関連マーカー (microRNA 210, HIF-1, CA9, VEGFなど), 代謝系マーカー (Glut-1, Glutaminaseなど) を評価し,TME変化が及ぼす影響についても検証をすすめる.乳癌術前化学療法症例約300例に対して同様の検討を行い,化学療法の修飾におけるTME変化を明らかにする.
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